ヒト脳細胞をチップと融合させた「日本語の音声識別AI」を開発!
ヒト脳細胞をチップと融合させた「日本語の音声識別AI」を開発! / Credit:CLIP STUDIO . 川勝康弘
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人工培養脳をチップに融合させ「ひらめき」で考えるバイオAIを開発! (2/2)

2023.12.13 Wednesday

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ヒト脳オルガノイドは「教師なし学習」も可能

脳オルガノイドは主に球状の形態をしており複雑な神経ネットワークを持っています。
脳オルガノイドは主に球状の形態をしており複雑な神経ネットワークを持っています。 / Credit:Hongwei Cai et al . Brain organoid reservoir computing for artificial intelligence . Nature Electronics (2023)

人間のは860億個ものニューロンが1000兆個のシナプス(回路接続)を構成し、さらに回路自体が常に新しいものへと動的に変化していきます。

また先に述べたように、脳は普通のコンピューターではパーツに別けられてしまうCPUとメモリが融合した完璧な演算機となっており並列処理に優れています。

2013年に理化学研究所が開発したスパコン「京」で行われた実験でも、脳と既存のコンピューターの性能の違いが浮き彫りになりました。

この実験では「京」に対して17億個のニューロンと10兆個のシナプスで構成された脳活動のシミュレートが行われましたが、わずか1秒間の脳活動シミュレートに40分もの時間がかかったと報告されました。

しかも17億個のニューロンと10兆個のシナプスは、脳の1%ほどに過ぎない量です。

もし生きている脳を演算機として使用できるならば、その利点は計り知れません。

脳オルガノイドは本物の脳に比べて遥かに小さな球体ですが、それでも脳の持つ優れた要素を備えているからです。

ヒト脳細胞をチップと融合させた「日本語の音声識別AI」を開発!
ヒト脳細胞をチップと融合させた「日本語の音声識別AI」を開発! / Credit:Hongwei Cai et al . Brain organoid reservoir computing for artificial intelligence . Nature Electronics (2023)

新たな研究では、脳の持つ優れた演算能力をAIとして活用するために、上の図のように、脳オルガノイドが多電極のシリコンチップの上に配置されました。

こうすることで、脳オルガノイドへの信号の送信と受信が可能になります。

人間の場合でも、音声は鼓膜などの感覚器官を介して電気信号に変換されて脳に送信されるため、仕組みそのものは脳とよく似ていると言えるでしょう。

そして8人の日本語からの240の音声をデジタル情報に変換し、電極を介して脳オルガノイドに入力するトレーニングを行いました。

またトレーニングでは音声データを入力し続けるだけで、オルガノイドに対して正しいか間違っているかを伝えられることはありませんでした。

これはAI研究における「教師なし学習」と呼ばれているものであり、ある意味で、より人間の発達に近い形式となっています。

(※人間の赤ちゃんも父親と母親の声を見分けられる能力を獲得するにあたり、正解と間違いを明示するような教師は必要ありません)

すると脳オルガノイドのニューラルネットワークが次第に変化していき、わずか2日ほどのトレーニングで240の音声が誰から発せられたかを78%の精度で識別できるようになっていたことが判明します。

この精度は既存の人工ニューラルネット(AI)に比べて劣る値でしたが、既存のAIでは2日のトレーニングで78%の精度に到達することはできません。

次に研究者たちは高度な方程式(カオス的な挙動をする力学システム:エノン写像)を解くために別の教師無しトレーニングを行いました。

すると脳オルガノイドは4日で学習が成立し、記憶ユニットを持たない単純な人工ニューラルネット(AI)よりも高い精度で解答できることが判明します。

ただ記憶ユニットを備えた高度なAIと比べた場合には若干、精度が低くなっていました。

ただこの場合でも初期の学習速度は脳オルガノイドのほうが早く、高度なAIが同じ精度に達するのに必要な10分の1の時間しかかかりませんでした。

またどちらのケースでも、通常のAIに比べて必要とされる電力は極めて少なく済みました。

これまでの研究で人間の脳は、完璧な解答よりも「そこそこ」の精度の解答を素早く行う性質があることが報告されています。これは明確な論理から導かれる答えとは異なる「ひらめき」のような解答です。

そのためチェスや囲碁など正確さが求められるゲームにおいて人間はAIには勝てませんが、複雑な自然環境で同時多発的な案件を学習したり処理するには、脳のほうが適していると言えます。

今回の研究結果も、脳が持つ学習の速さや「そこそこ」の精度が繁栄されたものと言えるでしょう。

将来的にもヒト脳組織を搭載したバイオAIはシリコンチップをベースにした人工ニューラルAIには正確さの面ではかないませんが、より柔軟で人間に近い挙動を示す存在として、問題解決のアシストをしてくれるでしょう。

ただより高度なバイオAIを求めて脳オルガノイドを高度化させていけば、やがて本物の脳のように「思考・感情・意識」を伴った「自我」が発生する危険性が大きくなってきます。

そのため研究者たちは将来的に、脳オルガノイドをコンピューターのパーツとして組み込む場合にも、倫理的配慮を念頭においた開発(自我を生まないようにする)が必要になるだろうと述べています。

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