妻の難病を治すため、キャリアを捨て「研究者」となった夫婦

story 2018/07/28
Credit: PRION ALLIANCE

2011年、ソニア・バラブは「死刑宣告」ともとれる自らの遺伝子レポートを受け取りました。「プリオン遺伝子」におけるDNAに異常が見つかったのです。これは彼女に、プリオン病の一種である「致死性家族性不眠症(Fatal Familial Insomnia)」を将来的にもたらすものであり、彼女の母親もこれが原因で亡くなっています。不運なことに、検査により彼女もその遺伝子を引き継いでいたことが発覚したのです。

これは、そんな「遺伝子時限爆弾」を抱える彼女と、彼女の夫であるエリック・ミニケルの「プリオン・ラブストーリー」の始まりでもありました。彼らはバラブが直面した「プリオン病」といった運命を変えるべく、生涯を捧げることを誓ったのです。彼らは互いに法律職とエンジニアのキャリアを捨て、遺伝子の研究に専念することを決意。両者ともに、来年の春には博士号を取得する予定です。

そして、「死刑宣告」から7年の時が流れた今、彼らはその治療法が見つかったと信じています。それは「アンチセンス療法」と呼ばれるものであり、病気の発症に際して起こるタンパク質の合成を指示する遺伝子の機能を阻害することによって、発病を抑えるような新治療法を指します。これにより、バラブのプリオン病を特徴づけるミスフォールディングされた(誤って折り畳まれた)タンパク質の奇妙な連鎖を食い止めることができるかもしれないのです。

Credit: WIKIMEDIA COMMONS / プリオン病に感染した脳組織

アンチセンス療法が認知されたのは数十年前ですが、大きなブレークスルーがあったのは昨年のこと。Ionis社が開発した新薬が、小児神経疾患や脊髄性筋萎縮症の治療に驚くべき効果を発揮することが証明されたのです。そして夫婦の存在を知ったIonis社は、彼らのために協力を惜しまないことを約束します。

バラブとミニケルは、Ionis社によるアンチセンス療法が、プリオン病を患ったマウスに対して有効であることを既に明かしています。薬を与えられたマウスの寿命は70%も向上していたことが分かったのです。

バラブは、一刻も早い新薬の人間への適用を望みます。彼女の中の「時限爆弾」が、いつその時を迎えるのかは誰にも分からないのです。それが明日かもしれませんし、30年後かもしれません。

バラブはその新薬を、ある意味自分自身で「実験」することを志願する意思があります。そして夫婦の間には、体外受精によって授かった新しい命も。この先彼らがどのような運命をたどるのかは誰にも分かりませんが、彼らは「アンチセンス療法」といった希望の光を頼りに、これからも研究を続けていきます。

 

目が覚めたら「5年連れ添った妻」が誰か分からなかった男性

 

via: MITtechnologyreview / translated & text by なかしー

 

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