「宇宙は存在しない」。物理学者が「反物質」を調べた結果、驚くべき事実がわかる

science_technology 2017/11/23

最近「雷から反物質が大量に作られている」という、大変興味深いニュースがありました。

雷から「反物質」 身近な場所で発見、研究者も驚き – 朝日新聞
http://www.asahi.com/articles/ASKCN6W22KCNPLBJ00C.html

反物質とは、物質と出会うと光を放って消えてしまうという不思議な物質です。まるでファンタジーのような物質ですから、「こんな身近なところに反物質があったのか」という驚きが聞こえるのも無理はありません。

そんな反物質ですが、今年10月、みんな大好き「欧州原子核研究機構」 – 通称セルンが反陽子を精密に調べたところ、「宇宙は存在するはずがない」という結果が出ました

そんなこと言っても、私はこの文章を書いているし、あなたはこの文章を読んでいます。宇宙が存在するから私やあなたが存在するはずです。

妙だな〜変だな〜。

それでは、これまで組み立てられてきた物理学や宇宙論に間違いがあるのでしょうか? 今回はこの不思議な物質「反物質」と、宇宙の始まりについてのお話です。

Source: A parts-per-billion measurement of the antiproton magnetic moment
https://www.nature.com/articles/nature24048

現代物理学では物質の勝利の理由を説明できない

この宇宙は、ビッグバンのすぐ後に起きた、物質と反物質のはげしい争いの結果生まれました。約138億年前のことです。この争いは皆さんご存知の通り、物質の勝利です。そのおかげで、銀河や星、惑星が生まれました。そしてその結果、私、あなた、海を漂う船、ハムスター、ビールなどが現在存在しているわけです。ところが現代物理学の理論からは、なぜ物質が勝てたのか説明が出来ません

現代の物理理論で計算すると、物質と反物質はちょうど同じ分量だけ存在していたはずでした。そうすると、物質が反物質と衝突して、物質も反物質も消えてしまいます。それこそビッグバンの直後に、パッと消滅してしまうはずなのです。
現代物理学では、ひとつの素粒子に対して、質量やスピンは同じだけれども量子数の符号だけが逆の素粒子が存在する、という理論があります。陽子には反陽子、電子には陽電子、ニュートリノには反ニュートリノが存在するのです。ここまでならば、整然としたきれいな理論ですよね。しかしながら、素粒子と反素粒子では、量子数の“数”が少し違うはずだ、と考えられています。そうでなければ、現在の宇宙に、反物質がほとんどなく、物質だらけである事実の説明がつかないのです。ピッタリ同じなら、パッと消滅していたはずですから。

宇宙が存在するならあるはずの非対称が「ない」

こうした話を背景に、スイスのジュネーヴ近郊にあるセルン(欧州合同素粒子原子核研究機構)で BASE プロジェクトが行われました。BASE とは、“Baryon-Antibaryon Symmetry Experiment”の略です。つまり、バリオンと反バリオンの対称性を調べる実験なのです。具体的には、陽子と反陽子の磁気モーメントを非常に精密に計測して、差異があるかどうかを調べるのです。もし差が発見出来れば、この宇宙に反物質がほとんどなく、物質ばかりであることの説明がつくわけです。

反陽子の磁気モーメントが、これまでにない精度で計測されました。反陽子がほとんど存在しないことを考えれば、これはものすごい偉業なのです。ところが、その結果として、陽子と反陽子の磁気モーメントの間に差異が発見されませんでした

セルンのクリスチャン・スモラ教授は次のように言っています。「反物質の計測が、ここまで精密に出来たということは、セルンの反陽子減速器の驚異的な威力を物語るものです」 この反陽子減速器というのは、陽子シンクロトロンで粒子を衝突させて出来た反粒子を捕捉し、BASE プロジェクトのような実験用に保存しておく装置です。

反物質というのは、観測することも計測することも非常に困難なものです。反物質が普通の物質と出会うと消滅してしまいます。ですから、反陽子をたくさん集めてフラスコに入れて重さを量る、というわけにはいかないのです。そのため、先ずは、真空中で磁力を使い、反物質を普通の物質から隔離しておかなければなりません。反物質の研究は、この隔離からスタートするのです。

今度の研究でも、磁力で隔離するシステムを作るのに多くの時間がかかりました。システムに少しでも穴があれば反物質は漏れて消滅してしまいます。しかも、完璧なシステムは不可能です。どのくらい長く隔離しておけるか、が問題なのです。研究者たちは、何年も研究を重ねて、隔離しておける時間を、ジリジリと長くしていきました。

今度の研究結果は、ネイチャー誌の10月18号に掲載されたのですが、それによりますと、405日間も隔離するのに成功したそうです。これに使われたのは“低温冷却ぺニングトラップ”という方法で、それを二重に組み合わせて隔離システムを完成させました。この方法で、最長記録を更新して、405日間隔離することが出来たのです。この反物質に磁場を作用させ、粒子のスピンを量子跳躍させました。その結果、驚くべき精度で磁気モーメントを計測することに成功したのです。

彼らが得た反陽子の磁気モーメントは -2.792847344142 μN でした。μN は核磁子と呼ばれる物理定数です。ちなみに、陽子の磁気モーメントは 2.7928473509 μN で、2つの“数”はほとんど一致しています。最後のほうの不一致は観測誤差の範囲内なのです。つまり、もし陽子と反陽子の間で磁気モーメントに差異があるのなら、それは現在の計測範囲よりも小さい、ということなのです。

そんなに小さい差異が存在するのでしょうか。

スモラ教授は次のように言っています。「我々の計測結果で、物質と反物質は完全に対称であることが確認されました。これでは、宇宙が存在しないことになります。宇宙が存在するからには、どこかに非対称があるのです。それがどこにあるのかは分かりません

現在は、BASE プロジェクトで、さらに精度を上げる研究が行われています。それでも対称であるならば、どこか他のところに非対称を探さなければなりません。

この世界の在り方については、「宇宙全体が二次元平面に保存された情報の投影である」とする「ホログラフィック原理」や、有名起業家イーロン・マスクも支持する「シミュレーション仮説」など、枚挙に暇がありません。ただそれゆえに、宇宙誕生の謎が解かれるのはまだ先のこととなりそうです。

 

宇宙の初期から変化していない巨大銀河が発見される

 

via: livescience / text by nazology staff

 

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