太古の地球生物を食い尽くした「奇妙な古細菌の一族」の起源に迫る研究

biology 2020/01/18
太古の地球を荒らしまわる直前の様子/Credit:nature
point
  • 私たち多細胞動物の先祖の真核生物は、他を取り込む力を持っていた
  • 真核生物は古細菌から別れた一派から生まれた
  • 古細菌と真核生物の間をつなぐミッシングリンクにあたる生命が発見される

現在の地球を覆う多細胞の動物は、すべて真核生物という細胞によって作られています。

しかし、真核生物がどこから、どうやって現れたかについては謎が多く残っていました。

今回、国立研究開発法人海洋研究開発機構の井町寛之氏らの12年にも及ぶ調査・研究によって、深海堆積物から真核生物の祖先に近縁な微生物の培養に世界で初めて成功。これは古細菌と真核生物の間をつなぐミッシングリンクであり、真核生物の起源の謎に迫るものです。

研究内容は1月15日付の、学術雑誌「nature」に掲載されています。

Isolation of an archaeon at the prokaryote–eukaryote interface
https://www.nature.com/articles/s41586-019-1916-6

真核生物の謎に包まれた起源

太古の地球を荒らしまわる直前の様子/Credit:nature

現在の地球の生命は、「細胞の作り」を基準にすると3種類に分けられます。

極端な環境を好む「古細菌」、地球上に広く分布して生態系の分解者として働く「細菌」、そして私たち人間を含む全ての多細胞生物が分類される「真核生物」です。

生命が生まれてから最初の20億年、地球生命は細菌と古細菌という2種類の微生物だけで構成されていました。

古細菌は、高温や高濃度の酸性、塩分といった極端な環境で生きていることが知られる生物です。

一方で細菌は地球に広く存在し、生態系の分解者、バクテリアなどと呼ばれています。

しかしこの均衡は、古細菌の一部から変異した生物によって、徹底的に破壊されてしまいます。その生物は他者の能力を取り込み、自分の力にするという、凄まじい「能力」をもっていたのです

彼らは運動能力を得るための鞭毛、酸素を利用するためのミトコンドリア、光をエネルギーにするための葉緑体など、次々に他の生物の細胞を自分の体にとりこみ、強化していきます。

それまでの地球生命は、環境に適応することで進化を繰り返してきましたが、新たに登場した真核生物と呼ばれる一族は、他者を取り込むことで、環境に対する適応力を身に付けていきました。

そして、その適応能力を活用し、先輩にあたる細菌と古細菌を食い尽くしながら、地球最初の多細胞生物へと進化してゆき、植物から人間まで、多様な生態系をつくりあげたのです。

真核生物は動物となり、植物となり、現在の地球を文字通り覆い尽くしていますが、その最古の姿、すなわち、古細菌から枝分かれした直後の様子は、いままで謎に包まれていました

まだ無垢な存在を求めて熱水噴火口の周囲の泥を掘る

バーの長さは500nm(1μの半分)/Credit:nature

これまで行われたDNAの解析により、真核生物は古細菌から分離したことは知られていましたが、その中間的な生物の発見はなされていませんでした。

しかし研究者はそのような中間的な生物が、熱水噴火口のような極端な環境で生き延びているに違いないと確信し、海底から泥を採取して、なかに住む微生物を調査することにしました。

まず研究者は採取した海底から、2000日以上もかけて、嫌気性(無酸素)の条件下で生物の採取と濃縮を行い、そうして得られた生物を1種類ずつ培地に移して分離しつつ、増やしていきました。

細菌が一定数に増殖すると、その細菌が目的とする古細菌と真核生物の特色をもっているかどうかを、1種類ずつ遺伝子解析を行って確かめていきました。

そうして気が長くなるような作業を12年も続けることで、研究者たちはMK-D1と名付けられた、真核生物の特徴を持つ、嫌気性の小さな細菌(直径550nm)の分離に成功したのです。

MD-K1は古細菌と真核生物の間の中間生物と言える

MK-D1は古細菌にはみられない触手のような構造を持つ/Credit:nature

発見されたMK-D1は古細菌と同じく、核やゴルジ体といった構造や、ミトコンドリアや葉緑体といった構造は持っていませんでした。

成長に酸素を必要とせず、アミノ酸を嫌気的に分解する能力をもっていました。

またMK-D1は多くの古細菌がそうであるように、共生する細菌をパートナーにしていました。

しかしMK-D1は、古細菌にはみられない特殊な細胞構造を持っていました。

MK-D1は細胞外部に触手のような長い突起構造を形成して、神経細胞のシナプス部分のように、小胞を放出することができました。

このような複雑な細胞構造は、真核生物だけにみられる特徴です。

またMK-D1には真核生物が運動を行うために持つ遺伝子(アクチンなど)をいくつか持っていました。

MK-D1は、まさに古細菌でもあり真核生物でもある生命なのです。

これらの事実から研究者は、MK-D1を「古細菌から分化して真核生物へと進化するまでの中間的な存在である」と結論づけました。

研究者によって提唱されたMK-D1型の古細菌から真核生物への進化方法

Credit:nature

研究者によって古細菌が真核生物へと進化する過程が提唱されました。

MK-D1は長い触手を利用して、酸素呼吸の能力を持った赤い細菌(ミトコンドリア)を捉え、膜を分泌しながら、ミトコンドリアを取り込んでいきます。

そしてMK-D1は飲み込んだミトコンドリアと共生して、酸素呼吸能力を身に着けました。

他の葉緑体や鞭毛のような器官も、同じようにして取り込んだと思われます。

まだ仲間がいるかも?

Credit:© Nintendo / HAL Laboratory, Inc.

MK-D1の存在を確認したことは、真核生物の期限を説明するにあたり、非常にインパクトのある発見でした。

今度、MK-D1を使った実験を行うことで、我々の祖先が秘めた性質を解き明かせると期待されています。

また世界各地の熱水噴火口周辺の泥を集めることで、MK-D1のように中間の性質を帯びた仲間を見つけられるかもしれません。

そうなれば、古細菌から真核生物への進化の道筋がより詳細に解明できるでしょう。

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reference: theguardian / written by ナゾロジー編集部

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