危機に瀕した人を助けようとしない「傍観者効果」が、ラットでも確認される

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拘束された仲間を助けるネズミ。/Credit: Mason Lab
point
  • 救助が必要な人を前に多くの人が傍観を決め込む「傍観者効果」が、ラットでも確認された
  • ラットは単独より、傍観者のいる状況で拘束された仲間を助ける可能性が低下した
  • 事件に対する傍観は、個人の気質やモラルだけの問題ではない可能性がある

スマホの普及などで世界中で誰もが日常的に動画撮影が可能になっていこう、危機的な状況を捉えた動画や画像が、数多くネットで視聴できるようになりました。

事故や事件の証拠映像が容易に残せることや、珍しい現象や災害などでは専門家が分析するための多くの資料が提供できるなど、これには良い効果がある一方、こうした動画の中には道徳的に疑問を感じるようなものも散見されています。

その1つが、救助を必要としている人を前に、助けようともせず大勢の人たちがただ遠巻きに動画撮影しているだけ、という一種異様な光景です。

こうした動画に対してネット上では、「この状況で見てるだけなの?」 「助けろよ!」「そんなに投稿するネタが欲しいの?」と、批判的な意見が多く見られます。

ある事件や事故を前に、自分以外に傍観者がいる時に率先して行動を起こさないという集団心理は、社会心理学で「傍観者効果」と呼ばれています

これは傍観者が多いほど、効果が大きく働くことがわかっています。

そして、シカゴ大学の新しい研究によると、この「傍観者効果」は複雑な心理を持つ人間だけでなく、ラットからも確認できるというのです。

多くの人が事件を前に傍観者を決め込む状況は、単純にモラルが低下したとか、ネタが欲しいという心理だけが原因ではない可能性があるのです。

救援が抑制される「傍観者効果」

Credit:depositphotos

「傍観者効果」の提唱は、1964年に起きたキャサリン・ジェノヴェーゼ暴行殺害事件がきっかけとなっています。

この事件は、ニューヨークの住宅街で発生しており、事件を報道した当時のニューヨーク・タイムズ誌の記事では、「38人もの人々が周囲にいたにも関わらず、彼らは事件を傍観していて誰も助けに入らなかった」と伝えています。

この事件については、マスコミが大げさに報道したため実際よりも誇張した内容で現代に伝わっていることが証明されていますが、目撃者がいたにも関わらず助けがなかったことは事実のようです。

この事件に興味を持った心理学者のビブ・ラタネとジョン・ダーリーは、悲鳴を上げるキャサリンに気づいていながら、なぜ多く人たちが何も行動を起こさなかったのか? という疑問について「多くの人が気づいていたから、逆に行動しなかった」という仮説をたてました。

この仮説を実証するために、彼らは2~6名のグループを使った実験を行いました。

実験では、1人が討論中に突然発作で倒れ、仕込みで入っている数人が何もせずに傍観するという演技をさせました。

すると、被験者が単独だった場合、すぐに救助の行動が起きたのに対し、仕込みの傍観者がいるグループでは救助の行動が低下したのです。

これが「傍観者効果」です。

これまで、この原因について「他の誰かが行動するから自分は必要ないだろう」という、責任の拡散が原因だと考えられていました。

ラットで同じ実験をしてみる

ラットは拘束具のドアを開けて仲間を助ける。/Credit: David Christopher, University of Chicago

まさにこのラタネとダーリーが行った「傍観者効果」の実験をラットでやってみるとどうなるだろうか? ということに興味を持ったのが、今回のシカゴ大学の研究チームです。

この研究チームは以前からラットを使った研究を色々行っており、2011年の研究では、ラットが閉じ込められた仲間を助けようとすることや、エサもその仲間のために取っておくことを発見しています。

また、ラットに抗不安薬を投与した場合、閉じ込められた仲間の不安を感じないために、仲間を助ける確率が低下することも、後の研究から明らかにしています。

このようにラットはかなり高い社会性、共感性を持っていて、別の研究では、ラットだけが過去一緒に過ごした経験を持つ仲間を、助けるという性質も発見しています。

今回の実験では、ラタネらの実験のラット版として、拘束具に捕まったラットと、被験者のラット、そして傍観者役には抗不安薬の投与で無関心になっているラットを使いました。

すると、ラットは1人きりのときはすぐに仲間を助けましたが、傍観するだけの多くの仲間と一緒にされたときは、拘束された仲間を助ける確率が低下するとわかったのです。

研究チームのPeggy Mason博士は「1人でいるより、無反応な観衆が大勢いるほうが状況が悪い」と話しています。また博士は次のようにも述べています。

「ラットは仲間を助けようとしますが、他のラットがまるで気にしているように見えないので、まるでやりがいを失ってしまったようでした」

複雑な社会心理を持たないラットにも「傍観者効果」があるという事実は、この現象が単なる責任問題や、モラルとは異なる要因から発生していることを示唆しています。

みんなが助けるなら私も助ける

ここで、研究チームは抗不安薬などの処理をしない仲間と一緒ならどうなるだろう、というところに興味を持ちました。

そこで、なにも処理をしていないラットとともに同じ実験を行ってみたのです。

すると、仲間を助ける確率はこれまでの予想に反して単独よりも、2匹、3匹と仲間が多い状況の方が拘束された仲間を助ける確率が高くなるとわかったのです。

これは実際、人間でもいえることだといいます。

監視カメラの映像を分析した研究では、暴力事件の実に90%は、周囲の人々が助けに入ることで止められているのです。

Credit:depositphotos

事件を前に、大勢が傍観者になるのか、みんなで助けに入るのか、その境界がどこで生まれるのかはまだ明らかではありません。

これまで傍観者効果は「他の誰かがやるだろう」という責任逃れの心理から来ているとされ、都会の人は冷たいとか、人間社会の闇だ、などと表現されていましたが、どうやらそれは後付の感想に過ぎなかったようです。

「この現象に見られるパターンを理解することは、幼稚園でお互いに親切にしなければいけないと教える以上に深い意味があります」

本研究の筆頭者であるJohn L. Havlik氏はいいます。

なぜなら「傍観者効果」は、人間に限った現象ではないのです。

この研究は、シカゴ大学神経生物学の研究チームより発表され、論文は科学の幅広い領域をカバーするオープンアクセス科学雑誌『Science Advances』に7月8日付けで掲載されています。

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reference: phys/ written by KAIN
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