解けたら1億円!? ミレニアム懸賞問題とは : 「リーマン予想」を解説

mathematics 2020/07/25
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もしも、数学の問題を一問解いて、お金がもらえるとしたら、あなたはどう感じますか?「数学は嫌いだけれど、お金がもらえるなら頑張れるかも」なんて思うかもしれません。

実は、「一問解けば、お金がもらえる数学の問題」があるんです。しかも、その額は 100 万ドルで、日本円に換算すると 1億円以上。

そんな夢のような問題は「ミレニアム懸賞問題」という名前で知られており、2020年現在、計6問の未解決問題が存在しています(元々は7問ありましたが、そのうち一問は既に解かれてしまいました)。

数学の問題をたった一問解くだけで1億円。今回は、そんな夢のような問題の一つである「リーマン予想」の背景を探っていこうと思います。

リーマン予想とは何なのか?

ベルンハルト・リーマン / credit:public domain, wiki

まずは、この「1 億円問題」であるリーマン予想の姿を見てみましょう。

リーマンゼータ関数の非自明な零点の実部は$\frac{ 1 }{ 2 }$である。

一つ一つの言葉は確かに難しそうですが、一行にも満たないシンプルな文章に驚かされます。ドラマの「ガリレオ」に出てくるような、難しい数式がズラズラと 並んでいるわけでもなく、出てくる数字も「$\frac{ 1 }{ 2 }$」のみ。このとてもシンプルな文章が、超難問なのです。

リーマン予想は、その名の通り、ベルンハルト・リーマン(1826年-1866 年)という数学者が打ち出した予想です。

非常に業績の多い数学者で、リーマン積分、リーマン幾何学、 リーマン多様体など、彼の名を冠する数学用語が多いことから、そのスゴさを知ることができます。

リーマン予想が提出されたのは1859年。今から約160年前で、日本はまだ江戸時代でした。1859 年と2020年現在を比較すると、科学は格段に進歩していて、スーパーコンピュータのような、凄まじい計算能力を持ったマシンも出現しています。しかし、リー マン予想は未解決のままなのです。

リーマン予想に欠かせない「素数」を知る

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160年モノの難問であるリーマン予想は、「素数」という存在と強く関わっています。素数というのは「1 より大きい整数で、1 と自分自身以外に約数を持たないもの」のことです。例えば、2,3,5,7 は素数ですが、6 は 6 = 2 × 3 となり、2と3を約数に持ってしまうので、素数ではありません。

正の整数は、素数の積で表現することができます。これを素因数分解と言います。

< 素因数分解の例 >

12=2×2×3=22 ×3

360=2×2×2×3×3×5=23 ×32 ×5

素因数分解を眺めていると、素数が「元素」のように見えてきます。

例えば、水が二つの水素と一つの酸素からできているように、12は二つの2と一つの3からできています。

「素数のことなんて調べても、何の役に立つの?」と思う方もいるかもしれませ ん。

実は現在、素数は私たちの生活の必需品になっています。インターネット上 で情報を安全にやりとりするための「暗号」という技術に素数が使われているのです。

例えば、RSA 暗号では、とても大きな素数p, qを 2 つ掛け合わせて、Nという数をつくります(N = p × q)。「N がわかっていても、そこから素数p, qを簡単に求められない」つまり「N を簡単に素因数分解できない」ということを背景にし て、RSA 暗号の安全性は保たれています。

21世紀の情報セキュリティに必須な存在となっている素数ですが、その研究は、 遥か昔、紀元前には始まっていました。紀元前300年頃に書かれたユークリッド の「原論」という本に、素数は無限に存在することの証明が書かれています。

それだけ長い期間、研究され続けているにも関わらず、素数は未だに謎だらけの存在なのです。例えば、素数同様、正の偶数も無限に存在していますが、

2 , 4 , 6 , 8 , 10 , 12 , 14 , 16 , 18 , 20 , 22 , 24 , 26 , 28 , 30 , 32 , 34 ,···

という風に規則的に並んでいます。しかし、素数はどうでしょうか?

2 , 3 , 5 , 7 , 11 , 13 , 17 , 19 , 23 , 29 , 31 , 37, 41 , 43 , 47 , 53 , 59 , 61 , 67 , 71 ,···

ここまで見ても、偶数のような規則性は見えてきません。「5 と 7」、「11 と 13」、「17 と 19」など、2しか離れていないものもあれば、23と29になると、6も離れています。もっと先の素数まで見ると、1327の次の素数は1361 で、34も離れています。しかし、さらに先の1427の次の素数は1429で、2しか離れていません。この2しか離れていない素数のセットは双子素数と呼ばれており、「双子素数は無限に存在するのか?」というのも未解決問題なのです。

リーマン予想は、明確な規則性の見えてこない素数の「分布」に関わっています。

つまり、「正の整数の中で、どのように素数が出現するのか?」についてのヒントを与えてくれるのです。リーマン予想が、素数の謎に一筋の光を与えてくれると 言っても良いかもしれません。

リーマン予想と「素数」の深い関係

では、リーマン予想と素数との関わりを見てみましょう。 そこには、次のような和が関わっています。

${\frac{ 1 }{ 1^{ s } }} + {\frac{ 1 }{ 2^{ s } }} + {\frac{ 1 }{ 3^{ s } }} + {\frac{ 1 }{ 4^{ s } }} + {\frac{ 1 }{ 5^{ s } }} + {\frac{ 1 }{ 6^{ s } }} + {\frac{ 1 }{ 7^{ s } }} + {\frac{ 1 }{ 8^{ s } }} + {\frac{ 1 }{ 9^{ s } }} + {\frac{ 1 }{ 10^{ s } }} ・・・$

正の整数の s 乗の逆数を順番に足し続けるという、とてもシンプルな和です。実 は、この和が「素数全体」と関わっているのです。オイラー(1707 年-1783 年)と いう数学者が次のような等式を発見しました。

${\frac{ 1 }{ 1^{ s } }} + {\frac{ 1 }{ 2^{ s } }} + {\frac{ 1 }{ 3^{ s } }} + {\frac{ 1 }{ 4^{ s } }} + {\frac{ 1 }{ 5^{ s } }} + {\frac{ 1 }{ 6^{ s } }} + {\frac{ 1 }{ 7^{ s } }} + {\frac{ 1 }{ 8^{ s } }} + {\frac{ 1 }{ 9^{ s } }} + {\frac{ 1 }{ 10^{ s } }} ・・・$

$={\frac{ 1 }{ 1 – {\frac{ 1 }{ 2^{ s } }}}} × {\frac{ 1 }{ 1 – {\frac{ 1 }{ 3^{ s } }}}} × {\frac{ 1 }{ 1 – {\frac{ 1 }{ 5^{ s } }}}} × {\frac{ 1 }{ 1 – {\frac{ 1 }{ 7^{ s } }}}} × {\frac{ 1 }{ 1 – {\frac{ 1 }{ 11^{ s } }}}} × {\frac{ 1 }{ 1 – {\frac{ 1 }{ 13^{ s } }}}} × {\frac{ 1 }{ 1 – {\frac{ 1 }{ 17^{ s } }}}} ・・・$

下(右辺)では、1-{1/(素数のs乗)}の逆数を掛け続けています。つまり、右辺は不規則に出現する謎の存在「素数全体」に関する積です。一方、上(左辺)は、きれいに 並んだ「正の整数全体」に関する和です

「きれいに並んだもの全体」と「不規則 なもの全体」が繋がり合っている不思議さが見えてきます。

実は、これこそが、リーマン予想に登場する「リーマンゼータ関数 ζ(s)」の正体 です。

< リーマンゼータ関数 >

$ζ(s) = {\frac{ 1 }{ 1^{ s } }} + {\frac{ 1 }{ 2^{ s } }} + {\frac{ 1 }{ 3^{ s } }} + {\frac{ 1 }{ 4^{ s } }} + {\frac{ 1 }{ 5^{ s } }} + {\frac{ 1 }{ 6^{ s } }} + {\frac{ 1 }{ 7^{ s } }} + {\frac{ 1 }{ 8^{ s } }} + {\frac{ 1 }{ 9^{ s } }} + {\frac{ 1 }{ 10^{ s } }} ・・・$

先ほどの等式とともに、ζ(s) の姿を眺めてみると、「リーマンゼータ関数 ζ(s)」と「素数全体」が深く関わっているであろうことが見えてくると思います。

さらに、もう少しだけ、このリーマンゼータ関数の不思議な一面を紹介したいと思います。

例えば、s=2 の場合

${\frac{ 1 }{ 1^{ 2 } }} + {\frac{ 1 }{ 2^{ 2 } }} + {\frac{ 1 }{ 3^{ 2 } }} + {\frac{ 1 }{ 4^{ 2 } }} + {\frac{ 1 }{ 5^{ 2 } }} + {\frac{ 1 }{ 6^{ 2 } }} + {\frac{ 1 }{ 7^{ 2 } }} + {\frac{ 1 }{ 8^{ 2 } }} + {\frac{ 1 }{ 9^{ 2 } }} + {\frac{ 1 }{ 10^{ 2 } }} ・・・ = {\frac{ π^{ 2 } }{ 6 }}$

となるのです。「平方数の逆数を足し続けると、円周率が出現する」というのは、 とても不思議に感じます。この等式もオイラーが証明したもので、「バーゼル問題」という名前で知られています。

また、リーマンゼータ関数については、数学書において、次のように言及されています。

ζ関数は、非常に簡単に構成できるにもかかわらず、容易にはその神秘を明か してはくれない難しい対象でもある。しかしながら、その奥底に閉ざされた真実 を1 つでも見つけることができたならば、思いも依らない深遠な関係をまた1 つ解明できると常に確信していてよいだろう。(J. ノイキルヒ「代数的整数論」)

数千年もの時を経て研究され続ける素数。その一つの転機は、18世紀にオイラーが見出した業績でした。それらを、19世紀にリーマンが受け継ぎ、 リーマン予想がこの世に現れたのです。

そして、2020年現在も、リーマン予想や素数をめぐる研究は行われ続けています。さらに今、素数は、情報セキュリティと密接に関わり、インターネットの時代を生きる私たちの生活になくてはならないものとなりました。

リーマン予想の持つ背景を調べれば調べるほど、数千年にもわたる数学研究から織りなされる深遠さに驚かされます。

ここで紹介したものは、 その深遠さの上澄みのほんの一部分です。ぜひ、文献などで、リーマン予想の深遠さの続きをお楽しみください。

数学的難問「ABC予想」がついに解明!ABC予想の基本と成果をやさしく解説してみた

【編集注 2020.07.26 21:00】
記事内容に一部誤りがあったため、修正して再送しております。
reference:黒川信重(著)「リーマン予想の今, そして解決への展望」,  J. ノイキルヒ(著)「代数的整数論」 , 加藤和也(著)「数論への招待」 / written by みのきち
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