海中で羽ばたく貝「海の蝶」の移動方法を調査。貝殻の形によって泳ぎ方を変えていた!?

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平らなアンモナイト型の巻貝が羽ばたいている/Credit:Frontiers in Marine Science

reference: livescience

羽ばたきながら移動する貝が、海には存在するようです。

「海の蝶(英: Sea butterfly, 学名: thecosomata)」などは、貝殻から伸びた2枚の羽を器用に使って海を泳ぎます。

9月7日『Frontiers in Marine Science』に掲載された研究では、これら羽ばたく貝たちの貝殻の形状と、移動能力の間の関係が詳しく調べられました。

結果、意外な事実が判明します。

上の動画をみてもわかるように、羽ばたく速度はかなり速く、1秒間に5回にも及んでいたのです。

動かないものの代名詞である貝が、羽虫のように高速で羽ばたく様子はかなり奇怪。陸上動物で例えるならば、亀に翼がはえるような進化と言えるかもしれません。

いったいどうして貝たちは重い貝を背負ったまま海中を飛んで移動するようになったのでしょうか?

貝の羽ばたきは虫の羽ばたきと同じ仕組み

羽ばたきによって羽の周囲に水流の渦がうまれる/Credit:Frontiers in Marine Science

羽ばたく貝の存在自体は、以前から知られていました。

羽ばたく貝は海水よりも僅かに重く、日中は羽ばたきながら海面近くに移動して餌となるプランクトンを食べ、夜になると動きをとめて海中深くに沈んでいくという生活パターンをとります。

しかしこれまで、貝たちの羽ばたき運動に着目した研究は進んでいませんでした。

そこで研究者たちは、これら羽ばたく貝たちを水槽に入れて、三次元カメラで動きを追跡することで、その羽ばたき運動を追いました。

結果、貝たちの羽ばたき運動は単調なものではなく、陸上の羽虫と同じく全体が「8の字運動」を行っていることが判明したそうです。

陸上の虫の羽は8の字運動を行うことで、単純な推力だけでなく羽の表面に生じる渦の空力を利用していることが知られています。

虫と貝は進化的に大きく異なりますが、収斂進化の結果か、羽ばたき運動に共通点ができていたようです。

しかし研究者たちはまだ満足しませんでした。実は他にも重要な事実が隠させれていたからです。

貝殻本体の多様性

羽ばたく貝は複数種類存在していた/Credit:Frontiers in Marine Science

隠されていた事実とは、下にぶら下げた貝殻の多様性でした。

羽ばたく貝には貝殻の種類のぶんだけ多くの種が存在していたのです。アンモナイト型、ネジのような巻貝型、縦に細長い型、ヒラメ型など実に様々な種類の貝殻がありました。

しかしここで研究者たちにある疑問が浮かびます。

なぜ貝殻の形状がこれほどまでに多様である必要があったのでしょうか?

貝殻のなかには流線形から大きく離れた形状のものがあり、水中での移動効率を考えれば、そのような不格好な種は淘汰されてもおかしくないからです。

研究者たちは謎を解き明かすべく、複数種類の羽ばたく貝たちの移動速度、沈む際の降下角度などを調べました。

重りとなる貝殻の多様性がエサ場の重複を避けていた

アンモナイト型の貝は水平方向に羽ばたける/Credit:Frontiers in Marine Science

研究者たちの事前の予想では、流線形に近い縦長の貝が最も効率よく、早く動くだろうとされていました。

しかし、実験で最も速く効率的に動けたのは球形に近い「ヒラメ型」であり、縦に長い型は重い上に操作性がよくなく、体長をベースにした相対速度(1秒間に何体長ぶん進めるか)は最も遅いものでした。

また意外なことに、明らかに泳ぐのに不適切だと考えられていたアンモナイト型は上方向の動きだけでなく水平方向への動きも得意としていました。

大きく下側にぶら下げた丸い貝殻を一種の安定板のように機能させ、素早い横移動も可能にしていたのです。

また立体的な巻貝は動きに回転をもたせることで安定性を生み出していることもわかりました。

これら速度や移動方向の多様性は、結果として羽ばたく貝たちの1日の挙動に多様性をもたらします。

そしてこの多様性はエサをとる場所(深さ)の多様性にも関連していました。

羽ばたく貝たちは羽の性能ではなく、重荷としてぶら下げる貝殻の種類を増やすことで、一種の棲み分けを行い、エサ場の集中を避けていたのです。

羽ばたく貝をドローン飛行に応用する

羽ばたきで空中を移動するドローンはもう開発されている/Credit:Science Robotics . youtube

今回の研究を指揮したマーフィー氏は、実は純粋な貝の専門家ではありません。

マーフィー氏はアメリカ、サウスフロリダ大学の機械工学科に属しており、主な研究目的は、水中と空中の両方をシームレスに飛ぶことができるドローンの開発だったのです。

羽ばたく貝と陸上を飛ぶ昆虫の羽ばたき方がほぼ等しいという事実は、そんな海空両用ドローンの開発にとって非常に重要です。

ドローンで水中で情報を収集し、空を飛んで戻ってくるといった使い方も期待できるでしょう。

生物の羽ばたき方の特徴を真似たドローンとして、過去に鳥に近い動作をするドローンについても記事にしています。

生物が長い時間をかけて獲得した生態を活かして、私たちのテクノロジーは成り立っているんですね。

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