食後のかたちを長時間にわたり維持
モジホコリは、1つの単細胞として存在することも、複数の細胞が融合して巨大な塊(数百平方cmにもなる)として存在することもできる生物です。
各細胞が融合してできた塊は、内部にチューブを連ねて、複雑なネットワークを形成します。
このネットワークは、動物の血管のように収縮して、水分と栄養素を押し出し、モジホコリの塊に供給します。
本研究では、これら枝分かれしたチューブが、「直近に見つけた食べ物の場所」という情報をエンコードできることが明らかにされました。
モジホコリは、食べ物から放出される化学物質を検出することでその場所を特定し、それに最も近いチューブが拡張し始めます。
一方で、食べ物から離れたチューブは収縮し、塊の内に吸収されて消失します。
スライムのようなこの動きで移動し、食べ物を飲み込んだ後、この形状は長時間にわたって維持されたままでした。
つまり、食べ物がどこにあったかの「痕跡」を強く残していたのです。
研究主任のカレン・アリム氏は「モジホコリの形状記憶は、私たちの脳と同様に、同じ場所に刺激が与えられることで、記憶の定着がより強固になるのではないか」と考えます。
例えば、痕跡を残したチューブの近くに再び食べ物が見つかると、塊はその方へ拡張・移動し、それによって形状記憶はさらに強化されています。
また、脳と同じように、痕跡が強化されなければ、ネットワークの形状記憶も弱くなるようです。
その証拠に、食べ物の近くにあるチューブは濃く、大きくなりますが、遠くにあるチューブは細くなり、次第に消えていきます。
このように、モジホコリは新たな食べ物を求めて移動するたびに、古い記憶を上書きしているようです。
さらに研究チームは、モジホコリが、チューブ・ネットワークを再編成(拡張と収縮)するきっかけとして、何らかの化学物質を放出しているのではないかと考えています。
例えば、列をなして行軍するアリは、後方の仲間が同じルートを追跡できるように化学物質を後に置いていきます。
ヘンゼルとグレーテルと同じやり口ですね。
後続するアリも同様に化学物質を置いて行くので、ルートは徐々に明確になり、追跡しやすくなります。
アリム氏は「モジホコリの分泌する化学物質は、おそらく可溶性と見られます。
それは食べ物に最も近い場所で放出されてチューブを拡張する一方、そこから遠のくほど希釈されるので、遠方のチューブは消失していくのです」と述べています。
しかし、この物質の存在はまだ特定されていないため、それを見つけ出すことが今後の課題となるでしょう。
それが分かれば、モジホコリが食べ物の探索や、迷路を通る際に必ず最短ルートを見つけ出せる理由が解明できるかもしれません。