いつ、誰が本に挟んだのか?
蝶を発見したのは、トリニティ・ホール付属図書館の司書長、ジェニ・レッキー・トンプソン氏。
氏は「図書館に保管されている貴重な古書を見ている中で、『シアター・オブ・インセクツ』(原題『Insectorum sive Minimorum Animalium Theatrum』)を手に取りました。
ページをめくっていると、その途中に小さな蝶が挟まっていたのです」と話します。
この標本は、タテハチョウ科の「コヒオドシ(The Small Tortoiseshell)」という蝶で、すぐ隣には本種を紹介した木版画と説明文がありました。
本書はイギリスで出版された初の昆虫専門書であり、あらゆる昆虫の外観、習性、生息地から、クモ類、ミミズ類まで網羅しています。
同大学へは、1980年に亡くなった古書収集家、ローレンス・ストラングマン氏の遺族から1996年に寄贈されました。
一方で、同書は希少本であるため、厳重に保管されており、蝶が96年以降に挟まれたことはあり得ません。
トンプソン氏は「トリニティ・ホールの専門家と話し合った結果、蝶の標本は、本の出版と同時代に保存された可能性が高いと結論しました。
古書の中に植物が保存されていることはよくありますが、昆虫の保存は、技術的な面も含め、非常にまれです。
しかし、17世紀のロンドンの薬剤師、ジェイムズ・ペティヴァーの著書『Musei Petiveriani 』(1695)の中に、蝶は植物と同じで、捕まえたらすぐポケットブックか、その他の本の内に入れなければならない、という記述が発見されました。
このことから、当時すでに昆虫を押し花の形で本の中に保存する習慣があったと考えられる」と説明します。
また、蝶の標本はきわめて状態が良く、本に封印されたその日の姿をほぼ完璧にとどめており、昆虫の押し花が有効であることを示しています。
トンプソン氏は「おそらく、17世紀の本の所有者が保存したのでしょうが、真相は誰にも分かりません。
それでも、この標本が長きにわたって、本の中に挟まっていたことは確かでしょう」と話しました。