赤ちゃんは大人には見えないものが見えている
赤ちゃんは大人には見えないものが見えている / Credit:depositphotos
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赤ちゃんは「大人には見えないもの」が見えているという報告

2021.06.30 Wednesday

生まれて間もない赤ちゃんは、たまになにもない空間をじっと見つめているときがあります。

赤ちゃんには特別な感性があり、私たちには見えないこの世ならざる何者かの存在を感じ取っているのでしょうか?

その考え方は、半分当たっていたかもしれません。

中央大学などの研究チームは、生後半年以下の乳児には、物体の知覚を阻害する「逆向マスキング」という知覚現象が生じず、そのために大人や高月齢乳児では見えないものを見ていると報告しています。

生まれたての赤ちゃんは、安定的な知覚が未発達なために、瞬間的に見えたものの残像がいつまでも残ってしまっていたようです。

この研究の詳細は、米国科学雑誌『米国科学アカデミー紀要(PNAS)』に6月24日付でオンライン掲載されています。

赤ちゃんには大人が見えないものが見える?(中央大学) https://www.chuo-u.ac.jp/research/news/2021/06/55148/
Perception of invisible masked objects in early infancy https://www.pnas.org/content/118/27/e2103040118

一瞬だけ見えたものに気づかない「逆向マスキング」現象

昔テレビではフライングゲームという一瞬だけ見えたものを当てるゲームがありましたが、私たちは一瞬だけ見えたものでも、それが何なのかだいたい認識することができます。

しかし、一瞬だけ物体が見えた直後に、同じ位置に他のものを提示されると、最初に見えたものが何だったのかわからなくなり、その存在に気づくことすらできなくなります

これは実験心理学の分野で「逆向マスキング(backward masking)」と呼ばれている知覚現象です。

私たちは一瞬見えたものの直後に違うものが見えると、何が見えたのか知覚できなくなる
私たちは一瞬見えたものの直後に違うものが見えると、何が見えたのか知覚できなくなる / Credit:中央大学,赤ちゃんには大人が見えないものが見える?(2021)

これは前に見えたものを覆うような物体でなくとも、ただ四隅に点を打っただけの中途半端な視覚情報でも発生してしまいます。

なぜこのような現象が起きるかについては、未だ明確な解答はありませんが、いくつか説が存在します。

その1つが視覚のフィードバック処理の妨害仮説です。

私たちがものを見たとき、眼からの視覚領域へ情報が送られます。

私たちは見たものが何であるのか理解するために、この情報を高次の脳領域へ順序立てて(ボトムアップ)処理していきます。

しかし、このとき私たちの脳は高次の領域から低次の領域へと「フィードバック処理」も行っていることがわかっています。

フィードバック処理が行われる理由は、私たちが安定的にものを知覚するためだと考えられています。

1種の見たものの答え合わせをしているような状態でしょう。

脳のフィードバック処理のために、私たちは一瞬見えたものを上書きされる認識できなくなる
脳のフィードバック処理のために、私たちは一瞬見えたものを上書きされる認識できなくなる / Credit:canva,ナゾロジー編集部

瞬間的に見えて、すぐにその対象が消えてしまった場合、見たものの情報は視覚短期記憶として格納されます。

このため、私たちは何を見たのか記憶を頼りに推測することができます。

しかし、瞬間的に見えたもののあとに別のものが見えてしまうと、フィードバック処理が妨害されて、最初に何を見たのかわからなくなってしまうのです。

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