ウミサソリの襲撃から生き残った三葉虫
見つかったのは頭部だけでしたが、この三葉虫は深い傷を負いながら、脱皮するまで生き延びたことが分かっています。
また、切断されて失った眼球の一つが、通常より少し後方で復元しており、両目のバランスが不規則になっていました。
天敵から逃げ切って、さらに視覚まで取り戻した例は、非常にまれです。
三葉虫は、古生代のカンブリア紀(約5億4100万〜4億8540万年前)に出現した水生の節足動物で、古生代末のペルム紀(約2億9890万〜2億5190万年前)に絶滅しました。
今回の化石は約4億5000万年前のものなので、オルドビス紀(約4億8540万〜4億4380万年前)に当たります。

この三葉虫が何に襲われたのかははっきりしませんが、研究チームは「甲羅の傷跡から鋭利な爪とハサミを持ったウミサソリの可能性が高い」と指摘します。
ウミサソリは、容姿がサソリに似た大型の水生節足動物で、オルドビス紀の中期に登場しました。
その後、シルル紀〜デボン紀(約4億4380万〜3億5890万年前)にかけて一気に繁栄し、シルル紀には海の頂点捕食者であったと考えられています。
人間の手の平サイズの種も多くいましたが、大きいものだと体長1〜2.5メートルに達しました。
ウミサソリにとって、三葉虫は簡単に捕まえられるお手軽な食料だったようで、一緒に化石化されることがよくあります。

研究チームは、この三葉虫が傷を治し、新たな視力を再生させるのに十分な生命力を持っていたことに強い関心を寄せています。
傷を負った個体は、三葉虫に限らず、捕食されるリスクが高くなるのが普通です。
「なぜ三葉虫はウミサソリから逃げ切れたのか」「傷ついた器官をいかに回復させたのか」、今後の調査に注目が集まります。