約450万年前に「縮小」に転じた可能性が浮上
チンパンジーのような類人猿のオスは、メスよりも大きな犬歯を持っており、ライバルとの争いや敵への攻撃に有用です。
中でも、大きく鋭い犬歯を持つオスは、コロニーの頂点に君臨し、1匹で複数のメスを我が物にしています。
ヒトとチンパンジーの共通祖先が分かれたのは約700万年前ですから、ヒトの犬歯はそれ以降に縮小し始めたことが予想されます。
そこで研究チームは、過去600万年間における300本以上のヒト科の歯を集め、分析を開始。
うち24本は、最古のヒト科とされる「アルディピテクス・ラミドゥス(Ardipithecus ramidus、以下、A. ラミドゥスと表記)」の犬歯です。
アルディピテクス属は、約580万〜440万年前のエチオピアに生息した原始的な人類の一種で、 長らく最古の人類とされてきたアウストラロピテクス属より、はるかに古い時代の化石人類であることが分かっています。

分析の結果、A. ラミドゥスの歯は、性別に合わせて「大きな犬歯」と「小さな犬歯」という2グループに明確に分けられないことが判明しました。
そこでチームは、歯に見られる変化を統計的に分析して、男性と女性の犬歯のサイズを追跡。
すると、A. ラミドゥスの男性の上顎犬歯は女性の約1.06倍、下顎犬歯は約1.13倍大きいことが特定されました。
その一方で、現代のチンパンジーでは、上顎と下顎の犬歯がともにメスよりオスの方が約1.3倍も大きいことが分かっています。
ここからチームは、「A. ラミドゥスの男女間の犬歯のサイズ差は、類人猿の犬歯の性別差が最も小さいとされるボノボよりも小さいのではないか」と考えます。
ゆえに、現代人の男性につながる犬歯のサイズは、A. ラミドゥスの進化後期に当たる約450万年前に縮小に転じた可能性が高いとのことです。
一方で、なぜ犬歯が小さくなり始めたのかは定かでありません。
しかし、犬歯が小さいことは、男性の攻撃性が低いことを示しており、そこから、女性が支配力や攻撃性の低い男性を好むようになったからと推測されています。
知能が発達するにつれて、女性たちは卑劣漢の乱暴さや横暴さに気づき始めたのかもしれません。