3万1000年前の世界最古の「切断手術」を受けた人骨を発見!
3万1000年前の世界最古の「切断手術」を受けた人骨を発見! / Credit: Griffith University – Griffith University Archaeologists discover worlds oldest surgical amputation(youtube, 2022)
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3万1000年前の世界最古の「切断手術」を受けた人骨を発見!

2022.09.11 Sunday

インドネシア・ボルネオ島で、世界最古となる「切断手術」の証拠が見つかりました。

切断手術は、今日でさえ、相当な解剖学の知識と外科的技術を必要とします。

これまでの最古の記録は、フランスで発見された約7000年前の高齢男性のもので、左腕が肘のすぐ上から人為的に切断されていました。

しかし、今回見つかった遺骨は、それよりはるかに古い約3万1000年前のもので、左足の脛(すね)から先が外科的に切断されていたという。

豪グリフィス大学(Griffith University)の考古学者で、本研究主任のティム・マロニー(Tim Maloney)氏は「この先史時代の手術痕は、人類がこれまで考えられていたよりもずっと早く、高度な医学の進歩を遂げていたことを示唆する」と述べています。

研究の詳細は、2022年9月7日付で科学雑誌『Nature』に掲載されました。

World’s Oldest Evidence of Surgical Amputation Lay Hidden For 31,000 Years https://www.sciencealert.com/worlds-oldest-evidence-of-surgical-amputation-lay-hidden-for-31000-years Stone Age skeleton missing foot may show oldest amputation https://phys.org/news/2022-09-stone-age-skeleton-foot-oldest.html
Surgical amputation of a limb 31,000 years ago in Borneo https://www.nature.com/articles/s41586-022-05160-8

人類は3万年前にすでに「切断術」を習得していた⁈

遺骨は、2020年に、インドネシアボルネオ島の東カリマンタンにある洞窟内で発見されました。

この洞窟には、世界でも最初期とされる手形のロックアート(岩窟絵)があることで有名です。

遺骨が発見された洞窟内部の様子
遺骨が発見された洞窟内部の様子 / Credit: Tim Ryan Maloney et al., Nature(2022)

遺骨は、頭蓋骨を含む全身にわたって回収されており、歯の放射性年代測定から、約3万1000年前のものと特定されました。

骨格の多くが無傷でしたが、左足の脛から先に外科的な切断痕が見つかっています。

詳しく調べたところ、この人物は、成人に達しているがまだ若く、切断手術はおそらく幼少期に受けたと考えられています。

切断面には、治癒を示す骨の成長が見られ、感染症の兆候もなく、術後から少なくとも6〜9年が経過していると結論されました。

発見された遺骨
発見された遺骨 / Credit: Tim Ryan Maloney et al., Nature(2022)

研究チームは、骨に見られる”斜めの断面”から、人為的に左足先を除去したと見て間違いないと話します。

確かに、当時の狩猟採集民にとっては、これと同様の傷を、人為的な切断以外の方法で負うケースがいくつか考えられるでしょう。

たとえば、ボルネオのような険しい密林の中では、足を滑らせて深刻な骨折を負ったり、ワニに襲われて足を食いちぎられる危険性があったはずです。

しかし、この骨断面には、そうした不慮の事故で生じる兆候は一切見られませんでした

下半身の骨格、左足の脛から先が切断されている
下半身の骨格、左足の脛から先が切断されている / Credit: Griffith University – Griffith University Archaeologists discover worlds oldest surgical amputation(youtube, 2022)

今回の発見は、「先史時代の狩猟採集社会では、高度で複雑な手術はできなかった」という一般的な通説を覆すものです。

切断手術には、人体の解剖学や衛生学に通じ、術中の致命的な多量出血と、術後の感染症を防がなければなりません。

また、前提として「生存のためには手足を切断しなければならない」ことを理解しておく必要もあったでしょう。

研究チームは、ボルネオの狩猟採集民が、切断手術に鋭い石器を使用し、術後には薬効のある植物を用いて感染症を防いだと考えています。

遺骨の持ち主のイメージ図、左足先を手術で失っている
遺骨の持ち主のイメージ図、左足先を手術で失っている / Credit: Griffith University – Griffith University Archaeologists discover worlds oldest surgical amputation(youtube, 2022)

さらに、シドニー大学(University of Sydney)のメランドリ・ヴロク(Melandri Vlok)氏は、次の重要な点を指摘します。

「この古代の狩猟採集民が、生命を脅かす大手術を幼少期に受けて生き延び、その後も数年にわたり山地を移動できたことは驚嘆に値します。

これは、周囲のコミュニティケアが充実していた証拠でしょう」

つまり、彼らは高度な医学的スキルだけでなく、仲間同士で助け合うチーム力も持っていたのです。

まとめ

遺骨が見つかった洞窟までの川の道のり
遺骨が見つかった洞窟までの川の道のり / Credit: Griffith University – Griffith University Archaeologists discover worlds oldest surgical amputation(youtube, 2022)

これまで、医学の進歩は、農耕の出現と同時期か、それに続くものと考えられてきました。

過去1万年の間に、狩猟採集から農耕へ、移住から定住へとシフトする中で、新たな健康問題が次々と発生し、それに伴って医学的知識が向上していったのです。

しかし、ボルネオ島での発見は、人類が農耕を始めるずっと前から、病気や損傷を受けた手足を切断するという高度な医術を有していたことを証明します。

ただし、この技術が、ボルネオ島の一部の人々に限定したものなのか、それとも、同時代の他のコミュニティでも広く共有されていたものなのかは分かっていません。

それを知るには、さらなる遺骨サンプルが必要となるでしょう。

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