核爆弾の熱では人体が全て蒸発することはない
「人の影」にまつわるもう1つの問題は「人間の蒸発」です。
現在になっても多くの人々が「人の影」を残した人々は、原子爆弾の強烈な熱線によって一瞬で蒸発してしまったと考えています。
同様の認識は日本だけでなく、海外の人々も「原爆の閃光とともに人間が影と煙だけを残して蒸発してしまう」というイメージを持っているようです。
確かに核実験の様子を記録したビデオでは、バスの塗料が溶けて一瞬で黒い煙になる様子が映っています。
また核戦争を描いた映像作品などでも、人間が一瞬で蒸発してしまう様子が描かれることが何度かありました(※「ヒロシマ:BBC第二次世界大戦の歴史」など)
しかし人間の場合、放射線や高熱により体の一部が燃えたとしても、数十キロの生体組織が全て一瞬で「気化」することはありません。
というのも原爆で発生する熱の持続時間は瞬間的なものだからです。
動物の肉を一瞬だけ高温にさらしても内部が生焼けであるように、いくら高温でも一瞬で全身を気化させるのは困難です。
爆発の衝撃波は熱線よりも遅れて届きます。
そのため「人の影」を作った人間の姿が見当たらないのは、熱線が影を作ったあと爆風によって吹き飛ばされたか、遺体収容時に運びだされたためと考えられます。
とはいえ被害者が生存できたわけではないでしょう。原爆が生み出した凄惨な被害の現実は変わりません。
しかし科学的な視点で見ると、原爆が残した人影は少し違った解釈で見えてくるかもしれません。