「噛まれると勃起」するクモ毒が新たなバイアグラになる
「噛まれると勃起」するクモ毒が新たなバイアグラになる / Credit:Canva . ナゾロジー編集部
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「噛まれると勃起」するクモ毒が新たなバイアグラになる

2023.09.22 Friday

天然由来の成分です。

ブラジルのミナス・ジェライス連邦大学(UFMG)では現在、噛まれるとペニスの勃起を引き起こすクモ毒から、勃起治療薬の開発が行われています。

既に動物実験での検証は終っており今回、臨床試験の第1相において安全性が確認されました。

試験が進んでいるクモ毒由来の合成タンパク質は、バイアグラなど既存の勃起治療薬とは異なるユニークな仕組みを持っており、併用することで相乗効果が得られたり、バイアグラが使用できない人にも使用できます。

使用方法も口から飲む「服用」ではなくペニスに直接塗る方式がとられており、大きく違います。

しかしペニスに塗って使う場合、相手の性器に影響は出ないのでしょうか? 色々と疑問の浮かぶこの新薬はどの様なものになるのでしょう?

研究の詳細はBIOZEUS社の『プレスリリース』によって公開されています。

Phase I Trials for BZ371A to Erectile Dysfunction https://biozeus.com.br/f/phase-i-trials-for-bz371a-to-erectile-dysfunction

クモ毒に含まれる血行促進効果だけを抽出して薬にする

クモ毒に含まれる血行促進効果だけを抽出して薬にする
クモ毒に含まれる血行促進効果だけを抽出して薬にする / Credit:Canva . ナゾロジー編集部

ブラジルに生息するクモ(Phoneutria nigriventer)はバナナの葉によくみられるため、地元ではバナナスパイダーとして知られています。

呑気そうな名前とは裏腹に、バナナスパイダーには毒があり、噛まれると極度の痛み、震え、けいれん、多量の発汗、脱力感、心拍数の変化など、さまざまな症状を引き起こし死亡する場合もあります。

しかし男性が噛まれた場合には、奇妙なことが起こります。

ペニスがずっと勃起したままになる持続勃起症が発生するのです。

原因はクモ毒に含まれる「血行促進効果」です。

バナナスパイダーは毒に血行促進効果のある成分を加えることで、獲物の全身に素早く毒をまわるようにする即効性を強化していたのです。

そしてこの血行促進効果が人間の男性に働くと、特にペニスの海綿体に大きな影響を与え、持続的な勃起が起こってしまうのです。

(※男性のペニスには海綿体という血液を含んで膨張する部分が存在します)

そこでミナス・ジェライス連邦大学の研究者たちは、このクモ毒に含まれる血行促進効果を利用して、勃起不全治療薬を作ることにしました。

クモ毒には数多くの成分が含まれており、それぞれユニークな仕組みで獲物の体にダメージを与えます。

しかし血行促進効果そのものは、毒ではありません。

そのためもし他の毒素を除去し、血行促進効果を与える成分だけを抽出できれば、勃起不全治療薬になる可能性があります。

結果「PnTx2-6」と呼ばれるタンパク質に血行促進効果があることが判明。

(※「PnTx2-6」は一酸化窒素を作る一酸化窒素合成酵素でした。一酸化窒素には筋肉を弛緩させ末梢血管を拡張する作用があります)

そこで研究者たちは「PnTx2-6」の中で血行促進において主な役割をしている部分を参考に、新たによりコンパクトな「BZ371A」と名付けられたタンパク質を人工合成し、動物実験を行いました。

生物の酵素で中心的な役割を果たす部分を特定してよりコンパクトな分子として再現することで、薬としての有効性を増すことが可能です
生物の酵素で中心的な役割を果たす部分を特定してよりコンパクトな分子として再現することで、薬としての有効性を増すことが可能です / Credit:Canva . ナゾロジー編集部

すると興味深いことに「BZ371A」はペニス表面に塗布した場合、塗布された部分に限って血流を増加させる効果があることがわかりました。

たとえばオスマウスのペニスに「BZ371A」を塗布した実験では、オスマウスのペニスでのみ血流を増加させ、勃起させることができました。

さらに勃起中のオスマウスの血液を調べたところ、血中には「BZ371A」がほとんど検出できず、勃起以外の副作用もみられませんでした。

この血中に分散しないという特性は極めて重要です。

バイアグラなど既存の勃起治療薬は服用すると血液に乗って全身に巡ってしまうため、低血圧・倦怠感・頭痛などが発生し、およそ30%の人々は使うことができません。

しかし「BZ371A」は血中に拡散せず、塗られたペニスでのみ効果を発揮するため、副作用の心配がありません。

そして「BZ371A」を使った勃起は、(性的な)刺激なしに発生します。

既存のバイアグラでは、前立腺がんなどの手術で神経に損傷を受けている男性には効果がみられない場合がありました。

ですが純粋に血流増加のみを引き起こす「BZ371A」使えば、刺激のあるなしにかかわらず海綿体に血が集まり、勃起が可能になります。

そうなると残る問題は「ペニスに塗布して使う」という部分です。

というのも、性行為では往々にして相手がいるからです。

次ページ勃起不全治療薬を塗ったペニスを女性器に挿入しても大丈夫か?

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