月の光だけを検知できる生物の特殊な光システムを解明!
月の光だけを検知できる生物の特殊な光システムを解明! / Credit:Canva . ナゾロジー編集部
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「満月に交尾する」生物は海面越しにどうやって月を見分けるのか? (2/2)

2023.12.25 Monday

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月の光だけを認識する特殊な仕組み

月の光だけを検知できる生物の特殊な光システムを解明!
月の光だけを検知できる生物の特殊な光システムを解明! / Credit:Hong Ha Vu et al . A marine cryptochrome with an inverse photo-oligomerization mechanism . Nature Communications (2023)

イソツルヒゲゴカイたちは、どうやって光だけを認識しているのか?

研究者たちが着目したのはクリプロクロムと呼ばれる、青色に反応するタンパク質の一種「L-Cry」でした。

これまでの研究により、クリプトクロムは脊椎動物、昆虫、サンゴ、そして植物や一部の藻類など幅広い種で「概日リズム(体内時計)」の調節に役立っていることが知られています。

また2022年に行われた研究では、このクリプトクロム「L-Cry」が月光と太陽光の区別に使われている可能性も示されています。

そこで今回、ヨハネス・グーテンベルク大学マインツの研究者たちはL-Cryの分子構造を調べ、イソツルヒゲゴカイたちが月光だけを検知する仕組みを解明することにしました。

調査にあたってはまず、イソツルヒゲゴカイからL-Cryの遺伝子を取り出し、昆虫細胞(秋ヨトウムシ:Spodoptera fragiperda)の細胞に組み込んで大量に生産させました。

そしてクライオ電子顕微鏡を使ってL-Cryを観察し、さまざまな光に対してどのように反応するかを調べました。

すると興味深い事実が判明します。

月の光だけを検知できる生物の特殊な光システムを解明!
月の光だけを検知できる生物の特殊な光システムを解明! / Credit:Hong Ha Vu et al . A marine cryptochrome with an inverse photo-oligomerization mechanism . Nature Communications (2023)

植物などのクリプトクロムは太陽の光が当たると2量体という2つセットになった構造をとります。

2量体になることでクリプトクロムは転写調節などさまざまな仕事を開始します。

しかしL-Cryは太陽の強い光が照射されると、2量体だったものが単量体へと分解するという、逆の現象を起こしたのです。

そして単量体に分解したL-Cryを2量体に戻せるのは、月の光のような非常に弱い光だけであることが判明します。

また月の光にあてられると、2量体となったL-Cryの片方だけが活性化することも明らかになりました。

植物のクリプトクロムは太陽の光にあたると、2量体となった両方が活性化しますが、イソツルヒゲゴカイのクリプトクロム「L-Cry」は活性化の方法も非常にユニークなものと言えるでしょう。

月の光で2量体になり片方だけが活性化するという仕組みが、イソツルヒゲゴカイが月の光だけを検知するのに役立っているのです。

また研究者たちは、同様の仕組みが月の周期に従う動物たちの多くに生じている可能性があると述べています。

もしクリプトクロムに月光を検知する仕組みを解明できれば、人間をはじめとした地球上の多くの「生命と月の関係」をより詳しく知ることができるでしょう。

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