アオスジヒザラガイ(Tonicella lineata)
アオスジヒザラガイ(Tonicella lineata) / Credit: ja.wikipedia
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まるで王蟲。生物では唯一硬い殻の上に「無数の目」を持つヒザラガイ (2/2)

2024.03.18 Monday

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ヒザラガイの目には2種類あった

これまでの研究で、ヒザラガイの殻には「エステート(aesthetes)」と呼ばれるごく小さな光感知器官が無数に点在していることが知られていました。

ただこれは光を感じ取るだけのもので、ヒザラガイに視覚を与えているとは言えません。

しかし研究チームは、ヒザラガイが長い進化の中で2種類の異なる目を別々に獲得していたことを発見しました。

1つは比較的大きくて複雑な構造をしている「シェルアイ(shell eye)」で、もう1つはより小さくて数も多い「アイスポット(eyespot)」です。

シェルアイはアラゴナイトという鉱物でできており、人間の目と同じように、外から入ってきた光を内部につながっている感光層に集光するレンズの役割を果たしています。

一方のアイスポットは殻の前方に無数に点在しており、それらが昆虫の複眼のようにまとまって機能することで視野を広くするのに役立っていると考えられます。

興味深いのは、両タイプの目を同時に兼ね備えるヒザラガイはいないということです。

ヒザラガイの大部分はエステートだけしか持っていませんが、他の一部は「エステートとシェルアイを持つ種」「エステートとアイスポットを持つ種」というように分かれているという。

エステート(緑)、シェルアイ(青)、アイスポット(赤)の図解。下は顕微鏡による拡大画像
エステート(緑)、シェルアイ(青)、アイスポット(赤)の図解。下は顕微鏡による拡大画像 / Credit: UC Santa Barbara – Unraveling the mystery of chiton visual systems(2024)

さらにチームはこの2種類の目がヒザラガイの進化の中で、別々に4回出現していたことを特定しました。

ヒザラガイの進化系統樹を作成して、どの種がどのタイプの目を持っているかをマッピングしたところ、2種類の目は異なるタイミングで独立して出現していたのです(下図を参照)。

ヒザラガイは約4億5000万年前に他の軟体動物から分岐したことが分かっていますが、その中でまずカロキトニダ目(Callochitonida)が約2億5000万年前の三畳紀に「アイスポット」を獲得。

その後、約2億年前のジュラ紀にスキゾキトン・インシサス(Schizochiton incisus)が「シェルアイ」を獲得し、さらに約1億年前の白亜紀に2つのグループが同じく「シェルアイ」を獲得。

そして直近である約2500万年前の古第三紀に「アイスポット」を獲得した種が現れています。

ヒザラガイの系統樹。青がシェルアイ、赤がアイスポット、白はエステートだけ
ヒザラガイの系統樹。青がシェルアイ、赤がアイスポット、白はエステートだけ / Credit: UC Santa Barbara – Unraveling the mystery of chiton visual systems(2024)

このように別々のヒザラガイが全く異なる時代に、2種類の目を独立して進化させたことは驚くべき事実だと研究者は話します。

一方で、これらの目が実際にどれくらい見えているのかは現在調査中とのことです。

ただ岩場にくっついて生活するヒザラガイにとって、背面に目があることは理にかなっていると思われます。

上方を見ることで天敵の接近をいち早く感知し、自らの動きを止めることで敵に気づかれず、危機が過ぎ去るのを待つのに役立っているかもしれません。

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