なぜ幼い子供は母親が好きなのか?根源的な謎を脳科学的に解明
なぜ幼い子供は母親が好きなのか?根源的な謎を脳科学的に解明 / Credit:clip studio . 川勝康弘
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なぜ幼い子供は母親が好きなのか?根源的な謎を脳科学的に解明 (2/3)

2024.07.29 Monday

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子供と母親の絆を作る脳回路

調査にあたってターゲットとなったのは「子供時代に活発なのに大人になると弱まる脳回路」でした。

人間やサル、マウスなどの哺乳類は子供のときには母親を求めますが、年齢を重ねるにつれて徐々にその傾向は薄れていきます。

そのため、子供が母親を求めるのに使われる脳回路があった場合、子供のときと大人のときの活性に大きな違いがあると予測されたからです。

哺乳類では母親が子供に授乳する特殊な育児スタイルをとります
哺乳類では母親が子供に授乳する特殊な育児スタイルをとります / Credit:Canva

すると脳内の視床の一部、不確帯と呼ばれる領域にあるニューロン(ソマトスタチン発現ニューロン:ZISSTニューロン)に、子供と大人で働きに大きな違いがあることが判明。

ただこのままでは、そのニューロンが本当に子供が母親を求める機能をしているかはわかりません。

そこで研究者たちは遺伝子操作を行い、そのニューロンが活性化したときに光を放つように改造しました。

そして遺伝子操作を受けた生後16から18日の子マウスの脳に光ファイバーを差し込み、どんなタイミングで光が発せられるかを記録しました。

すると不確帯にあるニューロンは、子マウスが母親と交流するタイミングで活性化することが判明しました。

ただこの段階では、単に交流に関係するニューロンである可能性もありました。

そこで研究者たちは子マウスたちが「見知らぬマウス」や「兄弟姉妹」「同年代の子供」「ふわふわな猫の縫いぐるみ」「ゴム製のアヒル」などと一緒にいるときと、母マウスと一緒に過ごしているときの活性度の違いを比べました。

すると不確帯にあるニューロンは、母マウスと一緒に過ごしているときに特に強く活性化することが判明しました。

この結果は、不確帯にあるニューロン(ZISSTニューロン)が母子間の絆において重要な役割を果たしている可能性を示しています。

研究者たちも「このニューロンが他の誰かではなく母親で特に強く活性化するという事実は興味深い」と述べています。

次に研究者たちは母親から引き離された生後11日の子マウスに対して、化学物質を使って不確帯のニューロンを強制的に活性化してみることにしました。

これまでの研究により、母親と引き離された子マウスは鳴き声を頻繁にあげ、血中ではストレスホルモンの一種であるコルチコステロンが増加することが知られています。

人間の子供で例えるならば、迷子の子供が強いストレスを感じて泣いてしまっている状態と言えるでしょう。

ですがこの状態にある子マウスに対して不確帯のニューロンを活性化させたところ、子マウスの鳴く回数が減り、ストレスホルモンのレベルが低下したことが確認されました。

この結果は、このニューロン(ZISSTニューロン)の活性化が母親の存在を疑似的に感じさせ、孤立による苦痛やストレスを低下させていることを示しています。

さらに興味深いことに、ニューロンを強制的に活性化させている状態で特定の匂いを嗅がせ続けたところ、子マウスは次第に、その匂いに対してポジティブな感情を抱くようになる「関連付け」が形成できることもわかりました。

母親の匂いが子マウスを安心させることは古くから知られています。

ですが母親がいるときに活性化するニューロンを、母親なしで強制的に活性化させ、母親以外の匂いと結び付けることで、子マウスはその匂いに「母親」を感じるようになっていたのです。

以上の結果から研究者たちは、不確帯にある特定のニューロン(ZISSTニューロン)について「ママと一緒にいると気分がいいニューロン」と名付けました。

ではこのニューロンは、子マウスが大人になるとどうなってしまうのでしょうか?

次ページ大人になってからの「ママと一緒にいると気分がいいニューロン」

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