盲目の人も「クスリ」で幻覚が見えるのか?

brain 2018/08/18

「LSD」というクスリをご存知でしょうか?

LSDとは覚せい剤の一種で、非常に強い幻覚作用があります。少量の服用でも、目の前が歪み、色彩がグチャグチャになり複雑な模様が現れます。

しかし、ここである疑問が生じます。幻覚は視覚障害があっても見れるのでしょうか?

Cognition and Consciousnessに掲載された調査では、ロックミュージシャンだった視覚障害者のブルーペンタゴン氏のLSD体験談が報告されています。彼は先天性の全盲で、生まれてから一度も視覚的な体験をしたことがありません。また、LSDを服用しても視覚体験はなく、幻覚を見ることはなかったそうです。

しかし、幻覚がない代わりに幻聴や幻想的な触覚の共感覚を体験したと語っています。LSDを服用したときは音が聞こえ、その音が滝の中にいるような感触をもたらすとのこと。ブルーペンタゴン氏の説明は、視覚障害をもつ人がどのようにLSDを体験するのかを知る手がかりとなる、貴重な証言です。

この証言以外にも、1963年に実施された研究があります。24人の全盲の被験者に対して、幻覚を見るため の十分な機能が網膜にあるか調査が行われました。しかし、その結果、網膜にはその十分な機能がないということがわかったのです。

ブルーペンタゴン氏の体験談からは、視覚体験がない代わりに他の感覚が共感覚を起こすという興味深い洞察が得られます。

共感覚とは、ある感覚器官が感じ取るものを別の感覚器官でも感じる状態です。例えば、赤や青などの色を音として聞くことができたり、音を聞くことでその音の味を感じることができたりする感覚です。

共感覚は、それぞれの感覚器官に繋がる脳領域がお互いに信号を送り、それが交差するためと考えられています。特にブルーペンタゴン氏の場合は視覚を司る脳の部位が欠如しているので、視覚以外の感覚に共感覚が生じるということになります。

多くの事例証拠や研究から、一般的にLSDは視覚と聴覚の共感覚を引き起こすことが報告されています。つまり、LSDを服用することで視覚情報が聴覚に影響を及ぼし、逆に聴覚が視覚に影響を及ぼすということです。ブルーペンタゴン氏の場合は視覚の代わりに触覚と聴覚で共感覚が起こっていたと考えられます。

しかし、ブルーペンタゴン氏一人から得られた情報には限度があります。幻覚剤学際研究学会の臨床医であるイルサ・ジェロメ氏は「個人の話から一般的な洞察を導くことはできません」と述べています。

現代医学でも、LSDによる脳への影響は明らかになっていません。しかし、LSDは脳の神経回路を変化させるので、それによるサイケデリックな影響が起こると研究者は考えます。研究者らは特に、神経伝達物質であるセロトニン受容体に着目しています。なぜならば、LSDが視覚野にあるセロトニン受容体を刺激し、その結果として幻覚が生じている可能性があるからです。視覚野は光や色、その他の視覚情報の処理を行います。

ここ最近、LSDによる脳への影響を調査した研究があります。調査から脳の視覚野で異常な活動、その他にも脳のあらゆる部位で同期的な活動が見られました。また、この同期的な活動は幻覚と相関関係がありました。

視覚野は、人が成長するにしたがって視覚情報を得ようとして多機能的なシステムをもつよう発展します。しかし、先天的に盲目の場合、視覚情報がないために視覚野は一般的な発展をしません。そのかわりに、音と触覚を処理するための回路が繋がると考えると、ブルーペンタゴン氏のLSD体験談に説明がつきます。

しかし、臨床医のジェロメ氏は、「視覚野はブルーペンタゴン氏のように機能しないと私は予測しています。LSDは視覚野に働きかけますが、ペンタゴン氏にとってその部位は音や触覚のような他の感覚に置き換えられています。そのため、それらに関する経験をしますが、実際は人によって様々だろう」と述べています。

幻覚や幻聴などはLSDの影響の一部でしかありません。その化学物質は感情や意識にも大きな影響を与えることがあります。その影響は視覚障害に関係なく現れます。LSDによって脳の神経回路を妨げるものが減少してより柔軟な情報伝達を行えるようになり、感情や意識の変化をもたらすという主張をする研究はあります。

以上から、視覚障害をもつ人がLSDを服用することで幻覚を見ることはないが、その代わりに別の感覚が共感覚を引き起こすと推測されます。また、共感覚以外に脳への影響で感情や意識の表れ方に変化が生じることもあるでしょう。

 

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via: LiveScience / translated & text by ヨッシー

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