光がとんでもない経路を通ることが3重スリット実験で実証される

science_technology 2017/11/13
Credit: stocksnap

素粒子を扱う時は、実数だけでなく「虚数」も用いた計算が必要です。一方虚数は現実世界には存在しない、「想像上の数」。しかし不思議なことに、私たちもまた、素粒子からできているはずです。

そんな私たちの根本となるものが、いまだに「物体」と呼べるかも定かでないといわれたら、なんとも興味が惹かれるというもの。

そんな量子力学の世界で、また一つの摩訶不思議な実験結果が出たようです。

2016年の暮れ、アメリカ、カナダ、メキシコ、ドイツ、の各大学の共同研究チームが3重スリットの実験に成功しました。

引用元: Exotic looped trajectories of photons in three-slit interference - nature
https://www.nature.com/articles/ncomms13987

量子力学は日夜進化しており、最近実現法が発明された量子コンピュータだけでなく、量子テレポーテーションの夢にも近づきつつあります。

今回の3重スリット実験をはじめ、次々と実証される量子力学の不思議な世界を、順を追ってご紹介します。

古典物理学の終わり

3重スリット実験がなぜ重要なのかをはっきりさせるために、まずは量子力学の歴史を説明しましょう。

物理学の大進歩は、ニュートンの方程式にありました。この方程式で、リンゴが落ちる意味から月が地球の周りをまわる理由までが明らかになったのです。

当時はまさに「この方程式を使えば宇宙のことはすべて分かるぞ」といった雰囲気で、物理学者たちは大喜び。さまざまな現象を解明しました。

この大発見に、気の早い物理学者は就職情報誌を読み始めた……かどうかは定かではありませんが、19世紀の終わり頃には、ほんの少しのことを除きすべてが分かったとされました。残されたほんの少しのこと、それが光電効果です。

光電効果

光とは一体何なのでしょうか?

これはニュートン時代からの疑問でした。
光は、波なのか粒子なのか?

多くの物理学者は、光は波である、と思っていました。

その証拠が2重スリットによる実験です。

衝立に細いスリットを2本作り、そこに光を照射すると、反対側に干渉の縞が現れます。これは、波特有の性質だ。よって、「光は波である」と思われていました。

ただ、ここで光電効果という現象が立ちはだかります。
これは、波では説明がつかないのです。

光電効果とは、金属に光を当てると電子が飛び出す、という現象です。この現象は次のようになっています。

いくら光を強くしても、電子が飛び出ないことがあります。光の振動数を変えると電子が飛び出るのです。

光が波ならば、強くすればするほど電子が飛び出るはず。金属に張り付いている電子を、強い光で引きはがすのだ、と思うのが常識です。

しかし事実は常識には当てはまりませんでした。

アインシュタインと光電効果

光電効果の謎を解いたのはアインシュタインです。

彼は、光は振幅の大きさをもつ粒子である、としました。
(振幅の数字は粒子の半径である、と考えれば分かりやすいです)
そして、光電効果を次のように説明した。

金属に張り付いている電子は、その電子と相性のよい振動数をもつ光に誘われると、電子の粒子と光の粒子がペアになって金属から飛び出ます。相性の悪い振動数では、誘われても相手をしない。

これは見事な説明です。しかしそうすると、光は波であることの証明の2重スリット実験はどうなるのでしょうか。光が粒子なら干渉縞は現れないはずなのです。

一体、光は波なのか、それとも粒子なのか?

これは大変な問題でした。物理学者たちは、就職情報誌を放り投げて研究に没頭しました。

量子力学と状態方程式

精度を上げて2重スリット実験が再開され、1個の電子を、2つのスリットに向けて発射しました。

その結果はなんと、やはり干渉縞ができたのです。これは電子が波であることの、何よりの証拠です。しかし光電効果の理論からすると、電子も粒子でなければなりません。

波か粒子か?
この矛盾はどうしたらいいのか?

天才物理学者たちは、次のように結論を出しました。

波と粒子の両方のふるまいをする、という事実があるのだから、それを認めよう。波と粒子の両方の性質が成り立つような方程式を作ればいいじゃないか。

このような流れで、めでたく状態方程式というのが作られました。

2重スリットの解答

状態方程式を2重スリットの場合にあてはめると、ピッタリと合いました。結局、2重スリットを電子が通ることは、次のように解釈できます。

いま、2つのスリットをそれぞれA、Bとします。そのとき、電子のある部分はAを通り、ある部分はBを通り、またAとBの両方を通る部分もあるのです。こうして電子は、分かれてAとBを通るので、結果として干渉縞ができます。

電子の「ある部分」とは、粒子を分割した一部分ということではありません。電子の粒子自体は分割せず、電子を波と考えて分割させます。

2重スリット実験を状態方程式で解釈すると、こう考えるしかありませんでした。

こうして、波と粒子の両方を取り込んで、「ある部分」に分かれる、という奇妙な説明をしなければなりません。これが量子力学なのです。

3重スリットの場合

光の軌道Aは観測時、不思議な赤い軌道を通ることが3重スリット実験でわかった / Credit: nature

それでは状態方程式は3重スリットにあてはめるとどうなるのでしょうか? 理論上は次のようなことが起きると考えられました。

3つのスリットを、A、B、Cとする。2重スリットの場合のように、電子のある部分はAを通る、というようなことが起こる。さらに、電子のある部分は、Aを通って向こう側へ行き、それからUターンしてBを通ってこちら側へ戻り、もう一度UターンしてCを通って向こう側へ行く、ということも起こる。

つまり、電子がS字形の進行をするのというのです。

今回の実験で、状態方程式で導き出されたS字形の進行は確かにある、ということが確認できたのでした。

結果とその先へ

量子力学では、普通の常識では考えられないような現象が起きています。それを何とか説明しようとして、状態方程式というものがでました。この状態方程式が絶対に正しいのか、すべての現象を説明できるのかはまだわかりません。

まだまだ隠された現象があり、状態方程式を変更しなければならないかもしれません。

しかし今回の実験によると、3重スリットまでのところでは、状態方程式は正しいらしいということがわかっています。

このまま順調に進めば、ゆくゆくは瞬時に移動する量子テレポーテーションも可能になるでしょう。

ワクワクする未来が、すぐそこに待っているのです。

 

via: nature / translated & text by nazology staff

 

関連記事

情報のスピードが光の速さを超えた。量子力学が示す可能性

人間の脳、実は量子コンピューターだった? 科学者が本気で実験を開始

脳にAIを埋め込んで「気分を変える」実験が行われる(米研究)

SHARE

science_technologyの関連記事

RELATED ARTICLE