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AIで「宗教間の対立」をシミュレートした結果、対立が起こるための「3つの条件」が浮かび上がる

2021.01.27 Wednesday

2018.11.02 Friday

Point
・大きな悲劇を生むことがある「宗教対立」が「人間心理」をプログラムしたAIによってシミュレートされる
・シミュレーションの早い段階において、それぞれ宗教団体に見立てられた「少数派グループ」と「多数派グループ」の緊張が高まった
・対立が深まる主な条件として、「多数派グループと少数派グループの規模がそれほど変わらないこと」など3つが挙げられた

今なお世界各地で見られる宗教間の対立。その衝突における力学は驚くほどに複雑であり、簡単に語れるようなものではありません。しかし新たな研究で、「AI」がその解決に当たって有効活用できる可能性を示しています。

オックスフォード大学の研究者らによる国際研究チームが、「人間心理」をプログラムしたAIによって宗教対立をシミュレートすることで、モデル化することを試みました。

A Generative Model of the Mutual Escalation of Anxiety Between Religious Groups
http://jasss.soc.surrey.ac.uk/21/4/7.html

信心深い人は、ふだん穏やかな性格であったとしても、他のグループから宗教的アイデンティティの核心が脅かされるようなことが起これば、暴力でさえ容認してしまうことがあります。研究では、この人間的な心理についてのシミュレーションがAIで行われました。

マルチエージェントシステムが組み込まれたAIによって、一見予測不可能である「さまざまな個性を持った人によって構成される『社会』などといった複雑な事象」をモデル化することができます。その単純な例が下のモデルです。ここでは、「赤」と「緑」のエージェントがそれぞれ異なるゴールを目指しています。「赤」が目指しているのは「緑」にタッチすること。そして「緑」が目指しているのは「赤」にタッチされずに「青」のドットにタッチすることです。

このモデルの中の「赤」や「緑」が意思決定をする過程こそが、それらの「心理」について照らし出してくれるものとなります。

研究では、宗教的な信念がどのように人々の意思決定に対して影響を与えているのかを明確にする必要がありました。そうすることで初めて、多くの「信心深い」AIによる相互作用がシミュレートできることとなります。

また、シミュレーションの中では「宗教的信念の強さ」に基づいてそれぞれのAIが意思決定を行いました。その強さのレベルについては、研究者らが恣意的に選んだ個人において「日常の出来事をどの程度『神』と結びつけているのか」、「宗教的モラルが社会的行動にどの程度影響を与えているのか」といった2つの指標を用いることで分類され、AIのモデルとなりました。

そして、用意されたAIプレーヤーは「多数派の宗教グループ」と「少数派の宗教グループ」を模した2つのチームのうちのどちらかに所属。それぞれのチームの目的は、自分のチームに所属するメンバーの「不安の総量」を減少させることです。

研究者らは、1ゲーム250ラウンドで構成されるこのAIシミュレーションを20,000回繰り返しました。ゲームはAIプレーヤーがランダムに配置されるところから始まり、それぞれがパーソナルスペースを求めて動き回ります。そしてゲームの中では、AIプレーヤーの不安を増加させるために4つの「脅威」が仕掛けられています。

1つ目は地震などの「自然災害」、2つ目は動物に襲われるなどといった「生物災害」、3つ目は他のチームのメンバーに遭遇し、自分のチームの信念を否定されるといった「社会障害」、4つ目は誰かが伝染病を患ってしまうなどの「伝染」による障害です。

そのような要素によって不安が増加していくと、AIプレーヤーはチームメイトを探し、互いに不安を軽減させるためのグループを作るようになりました。研究者らが「儀式クラスタ(ritual clusters)」と呼ぶこれらのグループの形成は、フィールドにおいて位置的に近いチームメイト同士のみにおいて見られた現象でした。

そして20,000回のシミュレーションの結果、研究者たちは1つ、あるいは両方のチームの不安の総量が、250ラウンドの1/4が終わらない間に増加していったこと発見しました。そして研究者によれば、両チームが相互に不安のレベルをエスカレートさせる条件は主に「3つ」あるとのことです。

1つ目は「多数派グループと少数派グループの規模がそれほど変わらないこと」、2つ目と3つ目は、不安を増加させる要素のうち「社会障害と伝染による障害が、多くのAIプレーヤーが経験しなければならないほど大規模であったとき」といったものです。

これらの条件が揃った場合、多数派・少数派いずれのグループのプレーヤーにおいても、一定の半径の範囲内に入った別のグループのプレーヤーに対して「社会的、あるいは感染による脅威を持つ存在」として認識してしまう環境ができあがっていたことになります。

もちろんこれはAIによるシミュレーションですが、人間の社会的問題の本質を考える上で興味深い例です。研究者たちは、この研究結果が今もこの世で悲劇を生み出し続けている「宗教の対立」を、少しでも和らげることができるヒントとなることを願っています。

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via: motherboard / translated & text by なかしー

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