つい被害者を責めてしまう「公正世界仮説」とは何なのか?

psychology 2019/07/22
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Point

■人間の脳には、自分の行いに対して必ず公正な結果が返ってくると信じる「公正世界バイアス」という認知バイアスの一種が備わっている

■これにより性的暴行などの被害者たちは、人々の「被害者にも落ち度がある」といった偏見に悩まされている

■様々な要因から生まれるこのバイアスだが、その1つに「脳が予測可能性を欲しがる」といったものがある

自分しか知らない情報によって感情の強さを見誤る、恐ろしい「自己中心性バイアス」とは

ネット上では「セカンドレイプ」などともいわれる、被害者の二次被害。事件の被害で苦しむだけでなく、彼らは度々、周囲からの心無い声に晒されることがあります。

では人間が被害者を責めたくなる心理とは、一体どのようなメカニズムなのでしょうか。

努力は必ず報われるべきだ

公正世界バイアス」と呼ばれるこの認知バイアスは、世界は完全に公正にできており、人間の行いに対して必ず公正な結果が返ってくると考えるものです。

「予測可能性」を欲しがる怠惰な脳は、このバイアスによって、考えなくても行動の結果を予見できるようにしておきたいというわけです。

このバイアスによれば、もしあなたに何か悪いことが起こったとき、その原因はその出来事より前に、あなたがそれに値する悪事を働いたことがきっかけであるとされます。

つまり、すべては「自業自得」で片付けられてしまうのです。

公正世界バイアスは、1960年代初期にメルビン・ラーナーによって確立されました。このバイアスによって、犯罪や貧困であれ性的暴行の被害者であれ例外なく、その被害が「自業自得」であると思ってしまう可能性があるのです。

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しかし、なぜ私たちはこれほどまでに「フェアであること」に対して強い欲求を持っているのでしょうか?

公正世界バイアスについて研究するユトレヒト大学のキース・ファン・デ・ボス氏によると、この要因の1つとして、人生における「ご褒美」の多くが遅れてもたらされることが挙げられるとのことです。

たとえば、人は良い給与を得るために勉強を頑張って資格を取得したり、上司に媚びへつらったりしますが、実際に良い給与という「ご褒美」が与えられるのはかなり先のことです。

そうしたときに、「頑張れば報われる」といった公正世界バイアスを用いることで自分を鼓舞しなければ、モチベーションを保つことができないのです。

被害者は「報い」を受けている?

さらに、私たちが公正世界バイアスによってメンタルヘルスを保っていると結論付ける研究もあります。このバイアスが真実であるとすれば、今良い行いをしておけば未来に希望が開けていくと心から信じることができるため、そんな人がうつ状態になることはないということです。

しかし、この正当化が悲劇を生むのは、何らかの形で「被害者」が生まれたときです。このバイアスが強ければ強いほど、どんな被害者であれ何らかの「報い」を受けているとみなされてしまうのです。

また、グループの一貫性を重視する「binding values(結合価値)」を重んじる人々は、その対の概念である「individualizing values(個別価値)」を大切にする人々よりも、被害者について「自業自得だ」と考える傾向が強いことも分かっています。

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これは、人々が支持する政党にも色濃く反映されます。たとえば米国共和党を支持する「red states(赤い州)」のいくつかは、医療保障制度について労働を課すことを条件にしようとしていますが、これは、働かない怠惰な人にはヘルスケアを受ける資格はないといった考え方に基づいています。

また、トランプ政権はオバマ時代の性的暴行に関するガイドラインを廃止して、より一層被害者救済を難しくしようとしています。

学校でのいじめについても、論争を呼ぶ「いじめられる側にも責任がある」といった言葉があります。本当にそうなのかは個別のケースを解剖しなければ分かりませんが、私たちが被害者側の非に注目してしまう傾向があることは確かなようです。

しかしやはり、最も注目されるべきは「加害者」の行動のはずです。被害者を自業自得だと思うことは、加害者の行動を正当化することに他ならないことを忘れてはいけません。

程度こそ分かりませんが、あなたの脳の中でも「公正世界バイアス」が少なからず作用しているはず。そうした事実を知っておくだけでも、これを知らない人よりは被害者の感情に寄り添うことができるのではないでしょうか。

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reference: theguardian / written by なかしー

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