目にナノ粒子を注入して暗視能力を手に入れる実験に成功

technology 2019/08/29
Creedit: depositphotos

Point

■普通のマウスの眼球に特殊なナノ粒子溶液を注入して、近赤外線を視る能力を与えることに成功した

■このナノ粒子溶液は、低エネルギー赤外光を高エネルギー緑色光へ変換できる、希土類元素を含んでいる

■この実験で、マウスは本来視ることのできない近赤外線の光を追って簡単な迷路を攻略することができ、実験の影響による網膜への損傷なども見られなかった

特殊部隊が敵のアジトへ突入するとき、暗視ゴーグルを被って建物のブレーカーを落とす…というシーンを見たことがないでしょうか?

暗視ゴーグルは可視光域外の赤外線を捉えることで暗闇を見通す装置ですが、今後はあんな大掛かりなゴーグルを付けなくても、裸眼で赤外線が見えるようになるかもしれません。

マサチューセッツ大学医学部の研究者が、特殊なナノ粒子溶液をマウスの眼球へ注射することで、裸眼で近赤外線を見せることに成功したようです。

この研究は、アメリカ化学会(ACS)にて8月27日に発表されています。

意外と狭い可視光域

人を含め哺乳類の目は、400〜700ナノメートル(nm)の波長の光しか検出することができません。

音楽では、音の波長が2倍異なった場合、1オクターブ音階が変わります。つまり人間の視覚は、光の波長を1オクターブほどしか捉えることができないのです。ピアノが8オクターブの音階を表現していることを考えると、視覚に関して人はだいぶ狭い領域しか見えていないと言えます。

Credit:京都エネルギー・環境研究協会

赤外線は絶対零度以外のすべての物質から放射される光です。そのため、可視光域を近赤外線の領域まで拡張することができれば、本来見えない夜空の星も、暗闇の中での視界の確保も可能になります。

現在、人が赤外線でものを見るには、赤外線ゴーグルやサーモグラフィーのような大型の装置が必要になるため、それを裸眼で実現できるというのは、大きな技術的革新だということができるでしょう。

熱カメラは熱源からの赤外線を分析し、温度分布を色分布に変換して表現している。/Credit:depositphotos

赤外線を視るマウス

今回の研究で使われたのは、アップコンバージョン-ナノ粒子(UCNP)と呼ばれる特殊なナノ粒子です。

UCNPは超波長の光を短波長の光へと変換することができるナノ粒子で、希土類元素のエルビウムとイッテルビウムが含まれています。これらは赤外光を可視波長の緑色の光に変換します。

このナノ粒子溶液を眼球に注射されたマウスは、本来見えない赤外線を緑色の光として認識できるようになるのです。

このマウスに赤外線を照射すると、瞳孔が縮み、反応を見せるようになります。

赤外線に対して瞳孔が反応するようになる。/Credit:UMass Medical School/Youtube

実験では、まずマウスをY字型の水槽に入れ、脱出可能な経路には三角形の印を可視光で表示する訓練を行いました。これにより、マウスは三角形の印が光る経路を進めば水の中から脱出できることを学びます。

次に、この三角形印を赤外線に変えて同じ実験を行いました。するとUCNPを注射していないマウスは、どちらが脱出経路か分からず、バラバラにY字の水槽を進み自ら逃げ出せなくなりましたが、UCNPが注射されたマウスは、可視光で印を映していたときと同様、脱出経路を正しく選んで移動しました

左ナノ粒子注入なし。右ナノ粒子注入マウス。○△はそれぞれ赤外線光で光っていて通常は見えない。/Credit:UMass Medical School/Youtube

これはナノ粒子の注射によって、マウスが狙い通りに赤外光を見られるようになったことを示唆しています。

この効果は注射後10週間つづきました。後遺症については、経度の角膜の濁りが確認されましたが、これは1週間程度で解消され、角膜の損傷などはなく安全な処置であることが示唆されていると研究者は語っています。

ただしUCNPは無機物の粒子であるため、生体との適合性には不安が残るのも事実です。そのため、研究者たちは今後はこのナノ粒子溶液を希土類元素ではなく、有機色素に置き換えたアップデートを行っていきたいと語っています。

この技術が実用化されれば、眼球への注射だけで暗闇に突入できる特殊部隊を作ることができるかもしれません。また、色盲などの視覚障害の改善にも効果が期待されています。

一時期、赤外線機能を持ったカメラが水着などを透けて映すことが問題になりましたが、ひょっとしたらこうした技術から、服が透けて見える視覚を手にしてしまう人も出てくるのかもしれません。

普通のビーチがヌーディストビーチに見えてしまうとしたら、これは別の需要を生んでしまうのでは…。

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reference:science,zmescience/ written by KAIN

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