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計算不可能といわれた126次元を持つ「ベンゼン」の電子構造を解明

2021.01.27 Wednesday

2020.03.09 Monday

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Credit:depositphotos
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  • ベンゼンは化学において非常に基礎的な原子構造だが、そこに含まれる電子構造は非常に複雑で126次元にもなる
  • 新しい研究は、この複雑な電子の挙動について、すべての次元に渡る波動関数のマッピングに成功した

ベンゼンはとても基本的な原子構造の一つで、構造式では正六角形の記号となって頻繁に登場します。

たぶん、あまり化学に詳しくない人でもどこかしらで「あ、見たことある」となるものでしょう。

このベンゼンは6つの炭素原子と6つの水素原子が結合したもので、その六角形の原子構造はよく知られています。

しかし、内部の電子構造を考えた場合、それは数学的に126次元になると言われていて、複雑すぎるために分析は不可能だと言われていました。

新しい研究は、この解析に成功し126次元すべてにわたって波動関数をマッピングしたと報告しています。

この研究論文は、オーストラリアのニューサウスウェールズ大学(UNSW)Timothy Schmidt氏とオーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)のデジタル研究を行うData61の科学者チームより発表され、3月5日付けでオープンアクセスの学術雑誌『Nature Communications』に掲載されています。

The electronic structure of benzene from a tiling of the correlated 126-dimensional wavefunction
https://www.nature.com/articles/s41467-020-15039-9

六角形のベンゼン環

化学で重要な基本構造の一つベンゼンは、1825年マイケル・ファラデーが鯨油から発見したと言われています。

分子式では C6H6と書き、6つの炭素原子と6つの水素原子が結びついて六角形の形を作っています。

実際に目で見ても本当に六角形の形をしていて、別の研究では原子間力顕微鏡による観測でその姿が捉えられています。

下の画像は、ベンゼン環が5つ直線に並んだペンタセン分子を撮影したものです。

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ペンセタン分子の球棒モデル(上)。ペンセタンの原子間力顕微鏡による撮影画像(下)。/Credit:L. Gross et al. Science 2009

この六角形のリングは様々な場所に見ることができ、DNAやタンパク質、木材や石油の成分でもあります。

また再生可能エネルギーや通信技術に革命をもたらすと言われる光電子材料の基本構成要素でもあるため、近年はこのベンゼンの電子構造の解析についての需要が高まっています。

しかし、原子構造としては解明されているベンゼン環も、電子構造となると一筋縄ではいきません。

炭素原子は6つの電子を持ち、水素原子は1つの電子を持っています。これがそれぞれ6つずつ存在するので、ベンゼン環は、全部で42個の電子を持つことになります。

ベンゼンの電子構造を知るためには、この42個の粒子からなる系の量子状態を調べなければなりません。これは多体波動関数という問題になります。

複数の粒子からなる系の波動関数を調べようとした場合、量子力学では全ての粒子の位置座標を指定することで初めて答えが出ます。

42個の粒子で考える場合、それぞれの3次元の位置座標をいっぺんに指定する必要があり、これは42×3=126というパラメータが必要な計算になります。

中学や高校で、二次関数や三次関数の問題を解かされた記憶が誰にもあると思いますが、この場合の多体波動関数の計算は、126次関数を解くということになるのです。

考えるだけでもゾッとしない超複雑な計算問題です。

そのため、これまではベンゼンの電子挙動を計算することは不可能だと言われていたのです。

しかし、それはベンゼン分子の安定性を完全に理解できないことを意味しており、今後の技術応用においては大きな障害になっていきます。

世界はなんとしても、この複雑な関数を解く必要に迫られていたのです。

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