宇宙の大規模構造を「粘菌」が再現!驚異の能力が明らかに

space 2020/03/16
宇宙の大規模ネット構造と粘菌のネット構造は共に最適化の原理によって形成される/Credit:Sloan Digital Sky Survey.JTS
point
  • モジホコリカビは、最適化された輸送ネットワークを作成し、複数の食料源を接続する、最も効率的な経路を見つける能力がある
  • モジホコリカビが宇宙の大規模構造をも再現可能だと判明

宇宙は現在、銀河が密集した銀河フィラメントや、ほとんど銀河が存在しないボイド(超空洞)などから構成されており、そのような三次元ネットワーク構造を宇宙の大規模構造と呼びます。

天文学者たちはいま、この大規模なネットワークの地図を作成しようとしていますが、観測力には限度があり、全てを網羅することはできていません。

一方、生物の世界でも、モジホコリカビ(Physarum polycephalum)と呼ばれる粘菌は生存に最適なネット状の構造をとることが知られています

日本の中垣俊之教授らによる研究では、現実の日本都市の位置を参考にエサが配置されると、モジホコリカビは実際の鉄道網とそっくりなネットワークを再現できることが証明されました。

そこで今回、アメリカの研究者たちは、このモジホコリカビの高い現実再現能力を利用し、宇宙に広がる大規模ネット構造をモジホコリカビに描かせることを思いつきました。

モジホコリカビの現実再現能力が本物なら、適切な餌と容器の配置で、三次元的な宇宙地図を描き出してくれるかもしれないからです。

果たして粘菌は宇宙の大規模ネット構造を描けるのでしょうか?

研究内容はカリフォルニア大学サンタクルーズ校のジョセフ・N・バーシェット氏らによってまとめられ、3月10日に学術雑誌「The Astrophysical Journal Letters」に掲載されました。

Revealing the Dark Threads of the Cosmic Web
https://iopscience.iop.org/article/10.3847/2041-8213/ab700c

粘菌は最適化されたネットワークを形成する

日本の中垣教授らによって行われた粘菌による鉄道網の再現実験。黄色い部分が粘菌で、白い部分が都市に見立てたエサ場である。粘菌は26時間かけて鉄道網を再現した。また後程、追加討論で述べるように、この研究が無意味な確率も5%以下である/Credit:JSTNews 2010

これまで、中垣俊之教授らの研究によって、モジホコリカビは、最適化された輸送ネットワークを作成し、複数の食料源を接続する、最も効率的な経路を見つける能力があることが明らかになっています。

また宇宙に存在する物質は、ビックバンからはじまる宇宙の構造的な成長により、ある意味、最適なネットワークを生成していると考えられてきました。

そのためモジホコリカビと宇宙のネットワークは生成されたプロセスこそ異なりますが、類似した数学的構造を生成すると、研究者たちは予測しました。

銀河が集まって銀河団になり、銀河団が連なって大規模ネット構造のフィラメントを構成する。物質が集中した部分はフィラメントとなり、まばらな部分はボイドと呼ばれる空白を形成する。大規模ネット構造全体では、2兆個の銀河が含まれていると考えられる/Credit:wikipedia.nrao.国立天文台

しかし、宇宙に存在する銀河の数は2兆個ともいわれており、この数に対応するモジホコリカビやエサを用意するのは現実的に不可能です。

そこでバーシェット氏らは、モジホコリカビの増殖や移動といった活動と、エサを配置する培養スペースの2つをプログラム上で再現することにしました

しかし、生物の活動パターンの数式化も仮想宇宙モデルの生成も、どちらも簡単ではありません。

バーシェット氏らは10年以上の年月をかけて、幾度もテストと改良を繰り返しました。そしてついに、現実のモジホコリカビの挙動をプログラム上でほぼ完璧に模倣することに成功したのです。

またプログラム化されたモジホコリカビを活動させる仮想宇宙モデルについても、宇宙に存在する暗黒物質の密度分布をシミュレーションすることで構築しました。

暗黒物質は目に見えませんが、宇宙の物質の約85%を占めているため、その莫大な重力によって、宇宙のネット構造(フィラメント部分)の分布は暗黒物質の分布に従うと考えたからです。

現実世界の宇宙ネットのフィラメント部分は物質濃度が凝縮された部分であり、特に濃度が濃い部分では銀河がうまれます。

一方、仮想宇宙モデルでは、物質濃度を高く設定された場所が、プログラム化されたモジホコリカビのエサ場として機能します。

仮説が正しければ、プログラム化されたモジホコリカビはシミュレートされた宇宙の中に、最適なネット構造を形成するはずです。

モジホコリカビは宇宙を描いた

プログラム化された粘菌の描いた宇宙の大規模ネット構造のフィラメント(紫)。下の3つの連なったボックスのそれぞれ左側は、実際の観測結果で高密度な物質(銀河など)が確認された位置(赤)で、右側は粘菌の予測した物質分布(紫)と実際の観測結果(赤)と重ねたもの。赤と紫の場所は見事に一致している/Credit:NASA, ESA, and J. Burchett and O. Elek – UC Santa Cruz

準備が完了すると、研究者は演算を開始させました。

するとプログラム化されたモジホコリカビは、仮想宇宙に適応しながら成長してゆき、最終的に図の紫色の部分の様に、見事な三次元ネット構造を構築しました。

後は、このモジホコリカビのネット(紫)を、実際の天体観測データ(図の赤い点)と比較し、両者が重なるかをチェックするだけです。

両者が重なっていれば、モジホコリカビの描いた仮想宇宙が現実の宇宙と一致することを証明します。

粘菌によって描かれた地球近傍の銀河ネットワークの3Dイメージ動画/Credit:youtube

その結果、プログラム化されたモジホコリカビが形成したネット構造に該当する場所と、望遠鏡による観測結果は、見事に一致

モジホコリカビは人類には知り得ない宇宙の大規模ネットワーク構造を、現実世界で再現していたのです。

最近の研究で次々と発覚する粘菌のスゴさ

この映像では8カ所の巡回場所に相当する演算をモジホコリカビに行わせている。時間と共に最適なネットワーク(答え)が形成されて行っている様子がわかる/Credit:royalsociety

それでは、大規模構造をも描ける粘菌の能力とは一体何なのでしょうか。

最近では他の研究でも、モジホコリカビの驚くべき能力が次々に知られてきています。

慶應義塾大学の研究者たちは、近年、モジホコリカビの持つ最適な分配ネットワークを作成する能力が、数学的難問である「巡回セールスマン問題」に対するほぼ最適な回答を出せることを明らかにしました。

巡回セールスマン問題とは、一人のセールスマンが複数の場所を巡回するにあたっての、最短最速ルートを計算する問題です。この問題を解決するには、開発中の量子コンピューターによる演算が必要だといいます。

学習能力を持ち、エサがなくなれば脱走し、量子コンピューターに匹敵する問題解決能力を持ち、宇宙の構造すら再現するモジホコリカビ。

これが単にモジホコリカビの食性に起因するのか、または未知の知性によるかはまだわかりません。

ですが、モジホコリカビの利用は、中垣俊之教授を擁する日本でも既にはじまっており、モジホコリカビの最適化能力から都市構造の設計理論が研究されています。

実現すれば、人類の都市構造は粘菌の指示によって決定することになります。

それが何を意味するかは、まだ誰もわかりません。

またモジホコリカビの品種改良や遺伝子編集が行われれば、さらに高度な能力を持つ粘菌が創造される可能性もあります。

もしかしたら、人類の知能をあっさり追い抜いている未来も有り得るのかもしれません。

なぜ宇宙の「銀河ネットワーク」と「人間の脳」はそっくりなのか?

reference: phys / written by katsu
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