なんで宇宙は反物質より物質のほうが多いの?9年のニュートリノ実験で検証

space 2020/04/16
スーパーカミオカンデ・ニュートリノ検出器。(c) Kamioka Observatory, ICRR(Institute for Cosmic Ray Research), The University of Tokyo

世界は最初、「無」でした。

「無とは一体 うごごごご」と言いたくなりますが、実は「無」は物質と反物質がくっついて出来ていて、物質がポロッと剥がれると、そこに反物質の穴が空くのです。

宇宙の始まりビッグバンの衝撃で、その無は崩れ、物質と反物質がボロボロと生まれました。

反物質は物質とは対称的な性質を持った存在です。もともと1つだった両者は、出会うと消滅して再び無に帰ってしまいます。

「すべてのそんざいを消し、そしてわたしも消えよう。永遠に!」

そんなノリですね。

じゃあ、なんで宇宙は物質で満たされているんでしょう? 宇宙の法則が乱れたのでしょうか?

これは宇宙の成り立ちを理解しようとしたとき立ちはだかる、大きな疑問です。

この問題は、物質と反物質が実は完全に対称な存在ではなく、少しだけ異なっていて、そのため対消滅が起こらない場合がある、と考えれば解決できます。

100億の粒子と反粒子が誕生しても、その内のほんの数個でも粒子だけ残されれば、宇宙は物質で満たされた状態に移行していけるのです。

これを専門用語では「CP対称性の破れ」と言います。

しかし、そんなこと一体どうやって確認すればいいんでしょう?

これを成し遂げたのが、過去にノーベル賞受賞で話題になったスーパーカミオカンデです。

新たな研究は、素粒子の一種ニュートリノと反ニュートリノを使って、両者が完全に対称な存在でないことを高い精度で確認したというのです。

ニュートリノってなんだっけ?

ニュートリノは、中性(電荷を持たない)の素粒子で、原子を構成するような粒子よりも遥かにたくさん存在していて、私たちの身体を1秒間に1兆個近く通り抜けています

ぜんぜん気づかなかった、という人は鈍いわけではありません。ニュートリノは幽霊のよう粒子で、ほとんど物質と相互作用することがありません。地球さえ簡単に貫通してしまいます

クラスで誰とも関わらない子は、いるのかいないのかわからない、というのと同じように、相互作用しないニュートリノもいるのかいないのかわからないのです。

そのため、非常に観測が難しく、長らく理論上の存在でした。その検出に成功したのがカミオカンデという岐阜県の巨大な検出装置で、この功績でこの研究はノーベル賞を受賞しました。

ニュートリノには、3種類のフレーバーと、3種類の質量によって分類されています。

Credit:スーパーカミオカンデ

ニュートリノは質量を持たない、という説明をよく聞きますが、実は電子の100万分の1という非常に小さな質量を持っています。

ただ、ニュートリノは固有の質量を持っているわけではなく、各フレーバーごとに3種類の質量を同時に混合した状態で持っています。

Credit:スーパーカミオカンデ

「質量が混合してるってなにごと!?」となりますが、このあたりが素粒子のよくわからないところなので深く考えるのはやめましょう

そしてニュートリノは、素粒子なので「波」と「粒子」の性質を同時に持っています。

ニュートリノの3つの質量は、それぞれ固有の振動数を持った波として空間を伝わっていきます。

今度は「波が質量を持つってなにごと!?」となりますが、このあたりが素粒子のよくわからないところなので深く考えるのはやめましょう

そして、各フレーバーのニュートリノは、3つの質量の混合なので、合成波として空間を伝わっていきます。

Credit:スーパーカミオカンデ

この合成波となったニュートリノは、空間を伝わる中でうねりを生じ、長距離移動すると波の位相がズレていきます。

すると電子ニュートリノがミューニュートリノに変わるなど、別のフレーバーへ途中で変化してしまうのです。

こうした現象をニュートリノ振動と呼びます。

今回の研究が行ったことは、このニュートリノ振動を利用して、ミューニュートリノと反ミューニュートリノが同じ距離移動したとき、別のフレーバーへ変化してしまう割合が、どう異なるかという検証から、粒子、反粒子の対称性の問題を調査したのです。

どうやって調べたのか?

今回の研究はT2K(Tokai to Kamioka)実験という研究プロジェクトによって達成されました。

これは茨城県にあるJ-PARC(大強度陽子加速器施設)で生成したミューニュートリノを、295km離れた岐阜県山中のニュートリノ検出器スーパーカミオカンデで検出するという、壮大な実験です。

©️T2K国際共同実験グループ,ICRRプレスリリースこの300km近い距離を移動する間に、ニュートリノのフレーバーが変化する割合を調べたのです。

今回の研究では、ここからCP位相角という値が導かれて、CP対称性の破れが検証されました。

CP位相角は、以前に同じCP対称性の破れに関する研究でノーベル賞を受賞した、小林益川理論で導入されたものです。

小林・益川両博士が研究したのはクォークという陽子や中性子を作っている素粒子についてでしたが、今回のニュートリノは電子などと共にレプトンという素粒子の仲間になります。

Credit:スーパーカミオカンデ

クォークについてはCP位相角が調べられていましたが、レプトンのCP位相角の値はこれまで未解明だったので、今回の研究はそれを明らかにしたものです。

検出装置は物質で出来ているため、反物質の方が検出しづらいことになります。それを考慮した上で、加速器から放たれたミューニュートリノが、スーパーカミオカンデで電子ニュートリノとして検出される変化の割合を予想し、実験が行われました。

結果、電子ニュートリノが90 個、反電子ニュートリノが15 個観測されました。

これはCP対称性が破れている場合に予想された、電子ニュートリノ82 個、反電子ニュートリノで17 個という数に近く、粒子反粒子の性質がレプトンでも大きく異なっていることを示す、証拠になるものです。

この実験は9年間もかけて行われ、信頼度は99.7%になるとのこと。

今回の成果について、村山斉東京大教授は「宇宙の成り立ちの解明に王手をかけた」と話しています。

宇宙誕生の秘密にどんどん迫ってきているようで、ワクワクしますね。

©️T2K国際共同実験グループ

今回の研究は、T2K国際共同実験グループより発表され、総合学術雑誌「ネイチャー」に4 月16 日付けで掲載されています。

Constraint on the matter–antimatter symmetry-violating phase in neutrino oscillations
https://www.nature.com/articles/s41586-020-2177-0
point
  • 宇宙誕生時には物質と同数あった「反物質」だが、今はほとんど存在しない
  • 素粒子ニュートリノと、その対になる反ニュートリノの性質は異なる可能性が高い

「宇宙は存在しない」。物理学者が「反物質」を調べた結果、驚くべき事実がわかる

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