実は恐竜の「オスメス」は判別できていなかった

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Credit:The Elder Scrolls Wiki – Fandom
point
  • 現状、恐竜のオスメスの判定については、大きさが異なるなどの性的二型で判断している
  • しかしサンプル数が少ないため、恐竜の性的二型判断は統計的に頑健ではない
  • 新たな研究は100を超えるワニの骨格を分析し、性差が導けないことを明らかにした

ヒヨコ鑑定士というお仕事があるように、動物のオスメスの判断は意外と難しいものがあります。

それが壊れた骨格の一部しか存在しない恐竜となれば、ヒヨコ鑑定士どころではなく、飛躍的に難しいものになります。

これまで、ティラノサウルス(T・レックス)については、メスの方が身体が大きいという動物界にはよく見られる性質が、雌雄を判別する基準になっていました。

しかし、これはたった25の壊れた標本に基づいた分析で、統計的には疑問の残る判断方法です。

そこで新たな研究では、恐竜たちの子孫とされるワニの骨格サンプルを使って、雌雄の判断が可能かどうかの実験を実施。

その結果は、なんと「さっぱりわからない」というものでした。

男の子? 女の子?

男と女の区別なんて付かなくっていいだろ! という方も昨今多いと思いますが、古生物学者としてはぜひとも区別を付けたいところです。

たいていの動物には、生殖器以外に性的二型(せいてきにけい)という雌雄のはっきりとした差があります

もっとも一般的なのは体格の差で、オスのほうがメスより身体が大きくなっています。

これはヒトにも見られる傾向ですが、マントヒヒなどは明確に雄雌でサイズが異なり、オスとメスは親子ほどサイズが異なります。アザラシなどもオスの方がメスよりはるかに大きな身体をしています。

これとは逆に、メスのほうがオスより身体が大きいという性的二型の逆転も存在します。

これもわりと一般的な傾向で、鳥類ではハチドリや猛禽類などに見られる特徴です。その理由には諸説ありますが、メスが大きいほうが卵を多く生みやすい、という仮説があります。

これが極端に現れているのはチョウチンアンコウなどで、メスに対してオスは驚くほど身体が小さく、ほとんど寄生生物状態になっています。

アンコウのオスとメス。/Credit:Tony Ayling/Wikipedia/CC BY-SA 1.0

恐竜のT・レックスについてはこの性的二型の逆転が見られ、オスよりメスのほうがずんぐりした体型をして大きかったとされています。

ティラノサウルス・レックス。/Credit:depositphotos

しかし、その根拠はたった25の壊れた骨格標本に基づいたものです。T・レックスの性的二型の逆転を裏付けるデータとしては、十分とはいえません。

シュリンガサウルス・インディクスという角を持つ恐竜については、オスは角を持つが、メスには角がないとされています。

しかし、この恐竜の化石はたった7体しか発見されておらず、メスと判断された化石に至っては2体のみです。

これでは単に化石の保存状態が悪く、偶然角を失っていただけという可能性が排除できません。

このように、現在の研究では、恐竜の雌雄の判断というものはかなり曖昧な状態です。

2017年には恐竜の性的二型に関する研究は、統計的に妥当とは言えないという論文が発表されています。

骨格から雌雄は判別できるのか?

では骨格の大きさが異なるからといって、それで雌雄の判断が本当にできるのか? ということを検証したのが、今回の研究です。

研究チームは、この検証のために絶滅危惧種であるインドガビアルの106の博物館標本を使って性差の検出を試みました。

インドガビアルは長い鼻先をしていて、成体のオスは鼻の部分が大きなコブになっています。このコブは鼻骨のくぼみに支えられていて、オスの方がこのくぼみが大きいことで知られています。

鼻先にコブを持つインドガビアルのオス(左)。インドガビアルの骨格標本(右)。左がメス、右がオスの骨格。/Credit:en.Wikipedia(Left),Lawrence Witmer/Ohio University(Light)

鼻先の骨格を見れば、インドガビアルはオスメスの判断は容易につけることができます。

しかし、この鼻窩を考慮に入れなかった場合、研究チームはインドガビアルの性別を正確に区別することができなかったのです。

「100以上の標本を使ったにもかかわらず、すべての標本は雌雄を生み出す明確な統計的シグナルを持たなかった」と研究チームは結論づけています。

インドガビアルのオスメスの骨格。鼻先を除くと雌雄を判断する術がない。/Credit:Lawrence Witmer/Ohio University

標本の性別が事前にわかっていても、インドガビアルの性別を骨格から判別できなかったとなると、恐竜の化石から性別を判断することはかなり困難な作業であることが予想できます。

一部の鳥類は、鮮やかな色の違いを持ちますが、そうした性的二型の特徴を化石から判断することはまず不可能でしょう。

こうなると、体内に出産前の卵を宿した化石を発見するのでもない限り、恐竜の性別を判断することは極めて難しい問題になります。

現状、恐竜の化石は男の娘と曖昧にしておくことしかできないようです。ちょっとモヤッとしますね。

Credit:Final Fantasy VII Remake,SQUARE ENIX

この研究は、英国ロンドンのクイーン・メアリー大学の動物学者David Hone博士を筆頭とした研究チームより発表され、論文は古生物学を扱う学術雑誌『Paleontology and Evolutionary Science』に5月12日付けで掲載されています。

【編集注 2020.05.14 15:50】
記事内容に一部誤りがあったため、修正して再送しております。

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