固すぎ! 工具を破壊し「切断されない新素材」が開発される

chemistry 2020/07/25

Credit:Stefan Szyniszewski
point
  • 工具で切断できない究極の素材が開発される
  • 新素材のもつ階層構造により、切削工具の力を工具自身へと転化できる
  • 新素材は切削工具の力を受けることで粒子状に変形し、サンドペーパーのように工具を摩耗させる

チェーンロックは盗難から自転車やバイクを保護しますが、工具によって簡単に切断されてしまいます。

英国ダラム大学工学部のステファン・シニシェフスキ助教ら研究チームは、グラインダーや電動ドリルで切削できない素材「プロテウス」を開発しました。

プロテウスは自身を傷つけようとする工具を逆に破壊することで、切削作業を無効化できます。

自然界にある防御メカニズム「階層構造」から着想を得る

グレープフルーツの果皮にみられる階層構造/Credit:Siau Sie Voo

自然界に存在するものは、極端な負荷から自身を保護するための階層構造をもっています。

例えば、グレープフルーツは10mの高さから落下しても果肉が損傷することはありません。それは、グレープフルーツの果皮がもつ外層棒状細胞と内層柔細胞の作用によります。

また、アマゾンに生息するプラルクーと呼ばれる魚は、鱗が階層的な設計になっているため、ピラニアの歯に抵抗できます。鱗の外層には波状の溝があり、溝の間隔がピラニアの三角歯の間隔と位相が異なっているため保護されるのです。

つまり、自然界の生体は単純な硬度だけを保護としているのではなく、形状や性質、相互作用を利用しているのです。

シニシェフスキ氏らは金属に階層構造を持たせることで、金属が持つ本来の硬度以上の保護作用を生み出すことに成功しました。

傷つけようとする工具を破壊する新素材「プロテウス」

Credit:Stefan Szyniszewski

彼らは、セラミックの球体をアルミニウムの発泡体に埋め込むことで新しい金属の階層構造を作り出しました。この素材には2つの防御機能が備わっています。

1つ目はセラミック球体による力の転化です。

新素材は、外圧に抵抗する硬い表面を持っているというよりも、切削工具がセラミック球体に接したときに振動が発生するようになっています。そしてその振動は切削工具を破壊します。

セラミック球体に接触すると振動が生じる/Credit:Stefan Szyniszewski

つまり、電動ドリルやグラインダーなどの切削工具が加えてくる力を工具自身に転化させ、これにより素材が切削されるのを防ぐのです。

仮に水圧で切断するウォータージェットカッターを使用したとしても、この構造がスプレーを分散させてしまうため、ジェットの速度は50分の1になり切断できません。

ウォータージェットカッターの威力を低減させる/Credit:Stefan Szyniszewski

2つ目の防御機能は、素材の断片化による摩耗です。

切削工具の力が加わると、どんなに硬い材料であっても素材の断片化を防ぐことは難しいものです。

そのため、研究チームはあえて素材が断片化するようにしました。

素材にアルミニウム発泡体を使用することで、細かい粒子状へと断片化するよう促進。

アルミニウムが砕けて(緑)粒子状(赤)になり、カッティングディスクを摩耗させる/Credit:Stefan Szyniszewski

切削工具によって作られた粒子状物質は、サンドペーパーのような作用を引き起こし、切削工具を摩耗させ機能低下させるのです。

このように、新素材は攻撃を転化したり自身の形を変えたりすることで、逆に攻撃し返して無効化するため、「切削できない素材」と言われているのです。

そしてこうした性能から、変身能力を持つギリシャ神話の海神「プロテウス」の名が付けられることになりました。

プロテウスは数十秒でグラインダーを使用不能にする

開発されたプロテウスは、実際に切削工具を使った実験でも、切断されませんでした。

実験には、直径115mの強力なカッティングディスクが装着されたグラインダーが用いられました。

これは、地雷から保護するために使用されている超高硬度鋼板(10mm)を45秒未満で切断できるものです。

超高硬度鉄板を45秒で切断。カッティングディスクの大きさに変化なし/Credit:Stefan Szyniszewski

しかし実験では、このグラインダーでもプロテウスを切断できませんでした。

しかも切断できないどころか、カッティングディスクが65秒で直径44mmにまで削れてしまったのです。

プロテウスは切断できず。65秒で直径44mmに/Credit:Stefan Szyniszewski

切削工具を無効化するプロテウスの性能がはっきりと証明されていますね。

さて、同研究チームである英国スターリング大学のミランダ・アンダーソン氏は、プロテウスについて「自然界で比較可能な唯一の構造はダイヤモンドですが、プロテウスは安価で軽量であり、セキュリティドアや防壁、靴底など様々な用途に応用できます」と述べています。

加えて、「プロテウスを作るための材料は不足しないので、大量生産も可能」とのこと。

今後プロテウスが量産・流通することにより、盗難や事故による問題が大きく減少することでしょう。

この研究は7月20日、「Nature」に掲載されました。

Non-cuttable material created through local resonance and strain rate effects
https://www.nature.com/articles/s41598-020-65976-0

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reference: newscientist / written by ナゾロジー編集部
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