さよなら注射。皮膚を「押して」薬を投与する薬剤浸透法が開発される

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Credit:Chin Shiuan Daniel Lio
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  • 注射の代わりに、皮膚に圧力をかけて薬剤を浸透させる方法が開発される
  • 圧力を加えることで、皮膚の表面下には微小な孔が形成される
  • 微小孔を通して薬剤が通常時の6倍浸透する
  • 圧力浸透法を利用するなら、痛み・傷なしでインスリンを投与できる

注射は薬剤投与の一般的な手法ですが、形状や痛み・傷から、患者には好まれないものです。特に1型糖尿病患者はインスリンを1日に数回投与しなければならず、注射は大きな負担となっています。

ところが最近、シンガポール南洋理工大学生物医学工学部ダニエル・チン・シアン・リオ博士らの研究チームは「皮膚に圧力を加えて」薬剤を浸透させる方法を生み出しました。

この方法を用いれば、注射器で皮膚を傷つけずに薬物を投与できます。

圧力を加えて微小孔をつくり、薬剤を浸透させる

Credit:CNA

研究チームは最初、伝統的な中国医学の「推拿(トゥイナ)」に注目しました。

トゥイナはマッサージのような療法で、皮膚や筋肉組織を擦すったり圧力をかけたりした後、軟こうを塗ります。

この「圧力をかけた後に薬剤を塗布する」メリットを科学的に検討し調査した結果、磁石を用いた一時的な圧力が、皮膚の表面下に非常に小さな孔を形成すると判明。研究チームは、この孔を通して薬剤が浸透していくと考えました。

そこで、新しいデバイスが作られました。これは万力のような形状をしており、2つの磁石で皮膚をつまめるようになっています。

Credit:Chin Shiuan Daniel Lio

つまむことで皮膚には圧力がかかり、皮膚の表面下には約3μmの微小孔が形成されます。

デバイスを取り外した後、薬剤を塗布することで、微小孔を通して薬剤を浸透させることが可能なのです。

マウステストで高い浸透率が実証される

この圧力浸透法の効果を調べるために、マウスを使ったテストが行われました。

その結果、圧力浸透法を利用したマウスは、皮膚に塗布しただけのマウスよりも6倍の量の薬剤が体内へ浸透したのです。

この浸透法は注射による痛みや傷がないので、1型糖尿病患者のインスリン投与に適用できると考えられています。

Credit:Chin Shiuan Daniel Lio

そこで、圧力浸透法によるインスリン試験も行なわれました。

実験ではマウスの皮膚を介してどれだけのインスリンが通過するか計測。その結果、インスリンは従来の経皮投与で報告されている最大量の約40倍も通過しました。

また、圧力浸透法による塗布は、マイクロニードルによって注入する薬剤量と変わらないことも判明しました。

ちなみに、微小孔は形成後1日で無くなることも観察されており、これは皮膚細胞が隙間を埋めたことを示唆しています。

現在、研究チームはメカニズムを改良するために更なる実験を続けており、圧力デバイスの特許も申請中です。

将来、「注射しない薬剤投与」が一般的になるかもしれませんね。

この研究は5月29日、「Science Advances」に掲載されました。

Temporal pressure enhanced topical drug delivery through micropore formation
https://advances.sciencemag.org/content/6/22/eaaz6919

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reference: ntu / written by ナゾロジー編集部
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