
- この宇宙に完全な真空は存在せず空間はエネルギーに満ちている
- そのため大きい空間が小さな空間を押すことができるカシミール効果が存在する
- カシミール効果による真空の力で直系3.5cmの金属膜に圧を加えて変形させられた
- 将来の顕微鏡サイズの部品にとって真空の力で稼働する部品は重要になる
人類は自然界にある様々な「力」を操って科学文明を発達させてきました。
近年においては音波を利用して物体を移動する「音響ピンセット」や、レーザーを照射することで命中した物体を移動させる「光ピンセット」などが開発されています。
ですが今回、研究者は無の力(真空の力)を使って物質を移動・変形させることに成功しました。
研究者たちは真空の力を引き出す装置を組み立て、装置内部に設置された直系3.8cmの薄い金属膜を平坦な状態から、おわん型に湾曲した状態に力を与えて変形させたのです。
「無の力による物体の制御と操作」…は、いつの間にかSF世界から現実のものになっていたようです。
しかし、いったい研究者たちはどのように真空から力を取り出し、金属膜を変形させたのでしょうか?
真空はエネルギーに満ちている

真空の力を理解するには、この宇宙には真の意味での真空がないということを知る必要があります。
ある空間から全ての原子や電子を取り去り、絶対零度まで冷却したとしても、その空間のエネルギーはゼロにならず、空間内部では仮想粒子や光子の生成と消滅が繰り返されています。
これらの絶対零度の真空状態でも生じる力は「真空の力」あるいは「ゼロポイントエネルギー」と言われています。
なぜ一切の物体や熱エネルギーのない空間で粒子や光子の生成と消滅が繰り返されるのか疑問に思うかもしれません。
これは簡単に言えば、ビックバンから続く宇宙の進化の中で、現在の空間は、まだまだ何もない所から粒子や光子を生成する「元気」があるから…と言えます。
1943年、オランダのカシミール氏は、この現象を確かめる実験を行いました。
実験装置の中核部分は上の図のように極めてシンプルで、僅かな隙間をあけて並んだ2枚の板からなります。
カシミール氏は、外側の大きな空間から発する真空の力が、板の間の小さな空間で生じる真空の力を上回っていると考えたのです。
実際に実験を行い板にかかる圧力を計測した結果、カシミール氏の仮説の正しさが証明されました。
板と板の間の空間を狭めば狭むほど、外部の真空の力と内部の真空の力の間に差が開き、隙間の距離が10nmに達した時、隙間を押し潰そうとする力は1気圧にも達したのです。
真空の力は目にはみえませんが、条件次第では非常に大きな力になることがわかりました。
そしてこの真空の力の差にはカシミール氏の名をとって「カシミール効果」と名がつけられました。