液体を振動によって宙に浮かせ、ヨットを「逆さまに浮かべる」ことができる。まるで反重力のような光景

physics

浮遊させた液体の底にヨットを浮かべると逆さに浮かんだ/Credit:Nature
reference: sciencenews

液体の下側にヨットを浮かべることができました。まるで重力に逆らっているかのように見えるヨット。思わず目を疑いたくなります。

この光景は9月2日に学術雑誌『Nature』に掲載された研究によるもので、CGやシミュレーションではなく、実験室に置かれた水槽の内部で、実際に創り出されたものです。

いったいどんな仕組みで、この反重力のような光景は演出されたのでしょうか?

液体は落下する直前に液滴をしたたらせる

液体がこぼれる時は液滴がまず最初に現れる/Credit:depositphotos

今回の研究は、誰もがみたことがある原理を元にしています。

液体の入ったガラス容器をひっくり返すと、当然ながら液体は重力に従って下に落ちます。

しかしながら、液体は固体のように全てがまとまって落ちるわけではありません。

よくみると落下する直前に、最下層部分に小さな液滴が形成され、続いて残りの部分の崩落が起こります。

この現象は粘度の高いハチミツを使えば確認することができるでしょう。

ハチミツの入ったボトルをひっくり返すと、やはり最初に真ん中あたりからドロ~と液滴の形成が起こり、その後に全体の崩壊が起こります。

そこで、パリ市立工業物理化学高等専門大学のエマニュエル・フォート氏は、この最初の液滴形成を阻害したら、いったいどうなるのだろうか…と考えました。

というのも、落下の最初のプロセスを遮断することで、落下全体のプロセスを停滞させ、液体を永遠に浮遊させつづけられと予測したからです。

思いついたら最後、しないわけにはいきません。

ただ問題は、どうやって液滴の形成を阻害するかでした。

落下の最初のプロセスを遮断すると全体が浮遊した

液体を空気の振動で浮上させることができる/Credit:Nature

液滴形成を阻害する方法には、空気の振動が用いられました。

空気を一定の波長で振動させることにより、落下しようとしている液体の底に生じた液滴を、液体内部に押し戻すことが可能になると考えたからです。

にあたっては、上の図のような水槽の中にシリコンオイルが入れられ、下層にガスが注入されました。

そして同時に水槽の底を振動させ、内部の空気を特定の周波数に固定します。

結果、液体は落下プロセスの第一段階である液滴形成が阻害され、空中に浮かび上がることになりました。

浮かび上がった液体の上に、おもちゃのヨットを浮かべることにも成功します。

気泡が液層の内側に向けて発生している/Credit:Nature

浮遊する液層の底にも浮力が働く

液層の底でも浮力がはたらいて船に重力に逆らう力を与えている/Credit:Nature

この段階でもかなり高度な研究ですが、フォート氏はさらに一歩、考えを進めます。

浮遊した液体の上側だけでなく、下側でもヨットが浮く可能性があったからです。

浮力は古代ギリシャの数学者であり発明家であるアルキメデスによって発見されたその物理法則であり、密度の高い物体が沈み、密度の低い物体が浮く原因となります。

フォート氏は、この浮力の結果生じる浮き沈みが、浮遊する液体の上側だけでなく、下側にも発生すると直感。そしてその場合、船は逆さに浮かぶと考えました。

を行った結果、予想は見事に的中しました。

浮遊する液体の下で、ヨットが重力に抗って逆さに浮んだのです。

ヨットが液体の下にある場合にも、浮力はヨットを下から上に、押し上げる効果がありました。

この押し上げる浮力の力と重力による引き落としの力が拮抗した状態になると、船は液体の下側で逆さまに浮かぶことができるのです。

そのため船の浮力が大きすぎれば、逆さまの船は「上に向かって沈み」、浮力が少なくなれば重力に引かれて「水槽の下に落下」します。

難しそうな現象だが、仕組みは極めてシンプル。浮力は常に重力に逆らって船を持ちあげようとする。一方で、重力は常に船を下に引く/Credit:Nature

上が下で下が上というような厄介な話ではありますが、実は原理は上の図のように至極簡単なものになります。

浮力は液体の上でも下でも船を上側に引き上げ、重力は液体の上でも下でも船を水槽の底に落とそうとする…という2つの基本的な事実は変りません。

問題は、その拮抗がどこで行われるかだけになります。

液体の上側で2力が拮抗すれば、普通の船のように浮かび、液体の下側で拮抗すれば逆さ船が浮かぶことになるのです。

浮遊する液層と逆さヨットがもたらす現実的な利益

液体を浮遊させて運べるメリットは限りなく大きい/Credit:depositphotos

今回の研究で明らかになった液体浮遊と逆さヨット現象について、フォート氏は「ふざけてやった」と述べています。

しかしながら、この技術を使えば流体を浮遊させたまま輸送し、水から汚染物質を分離するにあたって実用的な用途があるかもしれません

フォート氏の今後の研究にさらなる期待が集まっています。

【編集注 2020.09.07 07:00】
記事内容に一部誤りがあったため、修正して再送しております。
あわせて読みたい

SHARE

TAG