「嫌な相手から素早く逃げる」ための脳神経回路を発見! 生物の行動選択のメカニズムが解明されるかも

2つの刺激がコマンドとなり、後退運動を促す
2つの刺激がコマンドとなり、後退運動を促す / Credit:榎本 和生
reference: 東京大学

私たちは嫌な相手に遭遇したり身の危険を感じたりすると、その場から逃げるための最善策を考え、実行するものです。

実はショウジョウバエの幼虫も同様の行動選択を行うのですが、最近そのメカニズムが解明されました。

東京大学院理学系研究科の榎本和生教授ら研究チームは、11月2日付の科学誌『PLoS Genetics』に、「ショウジョウバエ幼虫が不快な刺激を受けた時に後退して逃げるための脳神経回路を発見した」と報告しました。

ショウジョウバエの幼虫には、生まれながらに後退運動するためのコマンドが組み込まれていたのです。

嫌な相手から素早く逃げるための最適な選択

素早く逃げるための行動選択
素早く逃げるための行動選択 / Credit:depositphotos

生物は、状況に応じて最適な行動を選択するものです。

例えば、嫌な相手に遭遇したときに脳は逃げるための最適な行動を促します。

脳に860億個の神経細胞をもつ人間は、複雑な思考の結果、その場から上手に逃れる方法を決定し実行するでしょう。

ハツカネズミは脳に7000万個ほどの神経細胞をもっていますが、やはり嫌な相手からは素早く逃げようとします。

では、脳に神経細胞が1万個しかないショウジョウバエの幼は、どのように反応するでしょうか?

これまでの研究によって、ショウジョウバエの幼虫も嫌な刺激や対象物に出会うとその場から逃げることが分かっています。

しかもその行動パターンは複数あり、状況に応じて最適な行動を選択しているというのです。

例えば、単一回数の不快刺激を頭部に受けた場合は、前進運動や回転運動でその場から逃げます。

しかし、連続の不快刺激を頭部に受けたり不快な光を浴びたりすると、後退運動によって逃げようとするのです。

ショウジョウバエの幼虫の脳はどのように行動選択しているのか

ショウジョウバエ幼虫の逃避パターン
ショウジョウバエ幼虫の逃避パターン / Credit:高坂洋史

では、ショウジョウバエの幼虫の行動選択はどのように行われているのでしょうか?

ショウジョウバエの幼虫の脳は非常にシンプルです。人間のように視覚や聴覚、触覚すべてから状況を把握し、複雑な思考によって「今回は横に避けよう」とか「この場合は後ろに下がったほう早い」などとは考えないでしょう。

そのため研究者たちは、ショウジョウバエの幼虫には「特定の刺激に対応する固定的な行動パターンが存在する」と考えてきました。

つまり、「ある刺激に対しては前進運動で避ける」「別の刺激に対しては後退運動で避ける」という神経回路が生まれながらに組み込まれているというのです。

そして今回、チームは新しい研究によって、ショウジョウバエの幼虫に後退運動を引き起こさせる「後退神経細胞群」の同定に成功しました。

ショウジョウバエの幼虫の「後退運動」を促す神経回路を発見

研究ではショウジョウバエの幼虫が嫌う青色光が照射され、後退運動を促しました。そしてこの時に利用される神経経路を探したのです。

その結果、次の経路だと判明しました。

まず、青色光はショウジョウバエの幼虫の「頭部光受容器」と体表全体に存在する「表皮痛覚神経細胞」の2つで感知されます。

ショウジョウバエ幼虫が青色光(不快刺激)を受容する感覚システム
ショウジョウバエ幼虫が青色光(不快刺激)を受容する感覚システム / Credit:榎本 和生

次に、それぞれの信号は異なる神経回路を経由して1つの神経細胞(MDNニューロン)に収束。

そして、ここで統合された情報が後退運動を生じさせる運動ニューロンを活性化させていました。

青色光を受容して後退行動へと変換するショウジョウバエ幼虫の脳神経回路
青色光を受容して後退行動へと変換するショウジョウバエ幼虫の脳神経回路 / Credit:榎本 和生

つまりショウジョウバエの幼虫にはコマンド形式の神経回路がプログラムされていたと確定したのです。

ゲームであれば、Aボタンでジャンプ、Bボタンでダッシュ、AB同時押しで回転ジャンプなどとコマンドが決まっています。

同じようにショウジョウバエの幼虫も、「頭部」刺激で前進運動、「頭部」と「表皮痛覚」同時刺激で後退運動などとコマンドが決まっており、今回の結果により、いわばそのプログラムコードが明確になったのです。

さて、今回の研究からショウジョウバエの幼虫の行動選択メカニズムの一部が明らかになりました。

ショウジョウバエの幼虫の脳はシンプルな構造であり、神経細胞間の全ネットワークも電子顕微鏡レベルで明らかにされています。

それゆえに今回の発見は今後の神経細胞、神経回路の分析に大いに役立つでしょう。

将来的には、ショウジョウバエ幼虫モデルが、行動選択のメカニズム解明に貢献するかもしれません。

みなさんのおかげでナゾロジーの記事が「Googleニュース」で読めるようになりました!
Google ニュースを使えば、ナゾロジーの記事はもちろん国内外のニュースをまとめて見られて便利です。
ボタンからダウンロード後は、ぜひフォローよろしくおねがいします。
Google Play で手に入れよう App Store からダウンロード
あわせて読みたい

SHARE

TAG