「動物を犠牲にするのに、自分は食べられないのか?」という強烈なメッセージ
さて、テルハン氏がウロボロスステーキを作成し展示したのは、人肉を自分で食べるためでも、その可能性を示すためでもありません。
彼の意図は「動物搾取と培養肉」の倫理的問題に対する訴えと皮肉にあります。
現在、各方面で培養肉が注目されています。
動物を殺すことなく食用肉を入手できるとうたわれていますが、実際は培養のためにウシ胎児の血清が使用されているとのこと。
妊娠中の母牛が屠殺された後、残った胎児の血液が用いられているのです。
では、「動物を犠牲にせず食用肉を得る方法があるのか?」と考えた時に、チームは倫理を無視した方法として「自分たちヒト由来の細胞と血清を用いる」ことを提唱し、実際に行なって見せたのです。
チームはウロボロスステーキキットの使用を推奨していません。多くの人もそう感じるでしょう。
そうであるなら、「動物搾取が含まれる動物培養肉は推奨できるのか?」と考えることもでき、チームのコンセプトはこの問題提起にあります。
問題提起のために、禁忌とも言える食用人肉培養を実際に行ない、展示までする必要があったのかは意見の分かれるところですが、間違いなく世界に向けた強烈なメッセージとなりました。
今後はこうした倫理的懸念の高まりに応じて、なるべく動物を犠牲にしない人工肉培養技術が研究されていくのかもしれません。