長い脚と短い翼で「コアラ狩り」を得意とした?
研究チームは2016年、南オーストラリア州にあるピンパ湖での発掘調査で、ワシの化石を発見しました。
湖と言うものの、現在では水がほとんどなく、草木がまばらに生えた乾燥地のど真ん中に位置しています。
それでも、ピンパ湖周辺は、大昔の動物たちの化石が豊富に出土する場所として有名です。
現存する有袋類のもっとも古い祖先とされるバンディクートから、ポッサム、カンガルー、ウォンバット、絶滅したコアラの祖先などの化石が見つかっています。
また、湖では魚やワニが、その周辺部ではカモやシギ、チドリといった小型鳥類の化石が出土しています。
と言うのも、数千万年前のピンパ湖は今とまったく違い、温帯雨林の中を約100キロにわたって続く大きな湖が広がっていたのです。
豊富な資源を求めて、さまざまな生物たちが集まっていたのでしょう。

にもかかわらず、タカやワシのような猛禽類の化石はほとんど見つかっていないという。
研究主任のトレヴァー・ワーシー氏は、発見時について「大型の鳥類のものであることはすぐに分かりましたが、断片的すぎたため、目を見張るようなものではありませんでした」と振り返ります。
最初に発掘した骨片の中には、爪と足根骨(そっこんこつ)が含まれており、そこからワシと特定できましたが、どの種かは検討がつきませんでした。
そこでチームは、骨片が見つかったあたりの土塊をすくい上げて、石膏で全体を包み、実験室に持ち帰って詳しく調査することにしました。

堆積物から骨片を1つずつ慎重に取り出したところ、計63個の骨の採取に成功しています。
これらを元の位置に組み合わせて、ハヤブサ、ミサゴ、ワシ、タカなどの骨格と比較。
その結果、この化石は、タカ科(Accipitridae)の猛禽類の仲間であることが判明しました。年代は約2500万年前と推定されています。

その一方で、足指の間隔や脚の筋肉の挿入箇所など、従来のタカ科の鳥類とは異なる特徴が随所に見られました。
こうした形態的特徴から、このワシを新種として記載。学名は新たに「アルカエヒエラクス・シルベストリス(Archaehierax sylvestris)」と命名されました。
脚の長さが15センチほどあり、体の大きさに比べて長いことから、コアラなどの樹上動物を捕まえるのに適していたと考えられます。
また、翼が比較的短いことから、高速飛行はできなかったものの、無防備なコアラを上空から急降下襲撃するのを得意としたのではないかと推測されました。

同チームのエレン・マザー氏は、こう述べています。
「ワシの化石は一般的には手に入りにくいものですが、発掘場所によっては比較的多く出土することもあります。
しかし、ピンパ湖ではそうではなく、猛禽類の保存に適した環境は特にありません。今回の新種のワシの化石化は、非常に運が良かったのでしょう」
研究チームは、論文内で、「新種ワシの直接の子孫にあたる種は現存していない」と結論付けています。