水素原子内の電子の波動関数。軌道ごとに電子が取れるエネルギー状態のパターンでもある。
水素原子内の電子の波動関数。軌道ごとに電子が取れるエネルギー状態のパターンでもある。 / Credit:en.Wikipedia
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2022.12.28 Wednesday

2022.01.01 Saturday

歴史で学ぶ量子力学【改訂版・2】「自分が物理学など何も知らない喜劇役者だったらよかったのに」 (3/4)

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誰もノーベル賞をもらえなかった電子スピン理論

パウリが導入した二価性とは何を意味しているのでしょうか?

この問題を解決させたのが、オランダ人のウーレンベックとハウトスミットという二人のポスドク研究者でした。

ウーレンベックが考えたのは電子のスピン(回転)でした。

磁場に影響する以上、それは電子の自転だろうと考えたのです。そして、自転ならば変化する種類は「右回り」か「左回り」の2種類しかありません。

電子スピンのイメージ。
電子スピンのイメージ。 / Credit:Wikipedia Commons

ただ、電子は大きさを持たない粒子として記述されます。これが回転した場合、電子の角速度は速を上回ってしまい相対性理論に反することになります。

パウリもボーアもこのことが引っかかり、電子スピンには反対でしたが、当のアインシュタインが解決可能だという考えを示したことで溜飲を下げます。

このことは後に場の量子論という別の問題に繋がっていきますが、それはまた別のお話です。

なんにせよ、このときウーレンベックの考えた電子が地球のように自転しているというのは誤ったイメージでした。

実際電子スピンは数式で表現されるイメージできない極めて量子的な状態を表しています。

もちろん、それではまったく理解できないので、今でも電子スピンは地球と同じような電子の自転というイメージで説明されています。

しかし電子スピンとは量子力学の話を聞いたときに、多くの人が「?」と躓く問題の1つでしょう。

こうした古典物理学では表現することのできない概念の登場は、古典物理学と量子論という新しい物理学を分けるきっかけになるのです。

現代でも多くの人たちが理解することに苦労する「電子スピン」の発見は、当時もちょっとしたいざこざを起こしました。

実はウーレンベックとハウトスミットの論文発表より、1年ほど前にラルフ・クローニヒという研究者がすでに二人の論文と同じレベルまで理論を完成させていたのです。

ただ、古典物理学で考えた場合あまりに問題の多い電子スピンは、クローニヒ自身も確信が持てなかったため、パウリにどう思うかと相談をしました。

パウリは二価性について、古典物理学の概念では表現できない量子状態だと直感的には理解していたので、クローニヒの電子の自転というアイデアを「電子はそんな風になっていないよ」と馬鹿にして、かなり冷淡な態度で否定しました

そのためクローニヒは、「あのパウリが違うというなら違うんだろう」と発表を諦めてしまうのです。

しかし、二人のオランダ人の電子スピン理論があっさり世間に受け入れられたのを目の当たりにして、クローニヒはかなりパウリを恨みます。

後に二人は和解しましたが、このことは世間の知る所となり、ノーベル賞委員会もこの騒動でスピンの発見について、ウーレンベックとハウトスミットの二人に賞を送ることを躊躇ってしまいました。

そのため、電子スピンは量子論の歴史に残る大発見だったというのに、この件でノーベル賞を手にした人は誰もいないのです。

しかし、パウリは排他原理の発見でノーベル賞を受賞したため、彼はこのことを後々までかなり気に病んでいました。

パウリは晩年になってもこの出来事を思い返し「若い頃の自分は本当に馬鹿だった」と後悔していたといいます。

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