「バイオハザード7」のキービジュアル
「バイオハザード7」のキービジュアル / Credit:CAPCOM
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匂いで臨場感を増した「とんでもないバイオハザード7」がVR研究から誕生

2022.04.01 Friday

バーチャルリアリティ(VR)ヘッドセットは、視聴覚を使ってユーザーに没入感の高い体験を提供します。

しかし人間の感覚には、まだ触覚、味覚、嗅覚があり、いずれかの感覚を追加できれば、VRの世界はより現実に近い環境へ強化できる可能性があります。

オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)およびシドニー工科大学(UTS)のVR研究チームは、VR環境への匂いの追加が及ぼす影響について研究を進めており、あろうことか最恐ホラーゲームとして有名な「バイオハザード7」においてその効果を実験したと報告しています。

プレイ済みの人はあんな世界の匂い嗅ぎたくないと思うかもしれませんが、これはVRの没入感にどんな効果を与えるのでしょうか?

研究の詳細は、3月30日付けで科学雑誌『PLOS ONE』に掲載されています。

 

Smells like something died in here! Virtual reality video game Resident Evil 7 is brought to life with scents designed to match the action https://www.dailymail.co.uk/sciencetech/article-10668809/Virtual-reality-video-game-Resident-Evil-7-brought-life-scents.html
Odour enhances the sense of presence in a virtual reality environment https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0265039

バイオ7のVR体験に匂いを追加

高い評価を得ているVRゲーム「バイオハザード7」
高い評価を得ているVRゲーム「バイオハザード7」 / Credit:『BIOHAZARD 7 resident evil』TAPE-3“バイオハザード”,biohazard

「バイオハザード7」は2017年にカプコンが開発した、現在のところもっとも凝ったVRゲームの1つであり、非常に強烈なホラー体験が楽しめる人気コンテンツです。

ホラーゲームでありながら、「怖すぎる」という苦情が殺到したというこのゲーム。

それはおぞましいグラフィックや巧みなゲーム構成もあるでしょうが、VR体験がいかに強烈な臨場感をもたらすかの証になっています

買ったけど怖くて途中でやめてしまったという人も多いでしょう。

しかし、VRがいかに高い臨場感と没入感をともなうと言っても、このシステムが刺激しているのは基本的に人間の五感のうちの2つ「視覚」と「聴覚」のみです。

残りの感覚である「触覚」「味覚」「嗅覚」も追加できれば、VRはさらなるリアリティを再現可能になるでしょう。

しかし、味覚や嗅覚については主に化学物質に対する神経の反応であるため、なかなか再現が難しく、VR環境での効果はあまり良くわかっていません。

そこで今回の研究者たちは、強烈なVR体験を提供するバイオハザード7の世界に匂いを追加することで、ユーザーの心理にどのような変化が起こるかを調査してみました

実験には22人の被験者が参加。このうちバイオ7をプレイ済みの人は1人だけでした。

ゲームのプレイ中、被験者はVRヘッドセットと共に、鼻の下に柔らかいプラスチックチューブを固定して、ここから匂いを生む揮発性物質を送られます。

実験の様子。2のスペースで参加者はゲームをプレイ。4のエリアで研究者が状況を監視している。3で匂いを合成。1のスペースは実験後のアンケートを行うエリア。
実験の様子。2のスペースで参加者はゲームをプレイ。4のエリアで研究者が状況を監視している。3で匂いを合成。1のスペースは実験後のアンケートを行うエリア。 / CreditNicholas S. Archer et al.PLOS ONE(2022)

上は実験の様子を示した画像で、3のスペースで匂いを合成。2のスペースでゲーム中のプレイヤーに送られます。研究者は4のエリアで監視中です。

実験にもちいられた臭気の元となる揮発性物質は、以下の2つです。

1つは森にいる感覚を高める、刈りたての草のような匂いをもたらす「青葉アルコール(cis-3-hexen-1-ol)」

森の中や庭のような場所の臨場感を高めたのは刈りたての草の匂い
森の中や庭のような場所の臨場感を高めたのは刈りたての草の匂い / Credit:CAPCOM

もう1つは、「有機硫黄化合物(ジメチルトリスルフィド)」です。

これは玉ねぎのような臭気と表現されますが、初期段階の死体で細菌分解が生成する物質でもあるといいます。

できればあまり嗅ぎたくはない匂いですね。

ジメチルトリスルフィドはいわゆる腐乱した匂いを想起させる
ジメチルトリスルフィドはいわゆる腐乱した匂いを想起させる / Credit:CAPCOM

参加者には匂いのある、無しで同じVR環境の世界を2回プレイしてもらいました。

そして各ゲームプレイの直後に、ゲームプレイ全体の「臨場感」(自分が特定の場所や時間に存在している感覚)と、各シーンへの没入感を評価するアンケートに回答してもらいました。

またプレイヤーの心拍数、体温、皮膚電気活動など生理学的な測定値も収集されました。

皮膚電気活動はあまり馴染みのない単語かもしれませんが、これは皮膚の電気抵抗から発汗について調べるものです。

これらの総合的な結果から、研究者はVRにおける匂いの効果を評価しました。

次ページ匂いは生理的に作用し、臨場感を大幅に増加させる

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