つららの中の小さな泡は「空気」ではなく「水」で満たされていると判明!
つららの中の小さな泡は「空気」ではなく「水」で満たされていると判明! / Credit:Canva . ナゾロジー編集部
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つらら内部の小さな泡は「気泡」ではないことが判明!

2023.01.09 Monday

つららの泡は気泡ではありませんでした。

カナダのトロント大学(University of Toronto)で行われた研究によれば、つららの泡が生じる過程を調べたところ、泡の内部が空気ではなく、周囲よりも不純物を多く含んだ水であることが明らかになった、とのこと。

また研究では、純水でつららを作ったときには泡が存在しなかった一方で、不純物の濃度によって泡が増え、つららの形状にも大きく影響を与えていたことが示されています。

私たちが幼い頃に光に照らしたつららには、どんな秘密が潜んでいたのでしょうか?

研究内容の詳細は『Physical Review E』にて掲載されています。

‘A more profound appreciation for the complexity of natural ice formations’: Researchers unlock cause of ripples on icicles https://www.artsci.utoronto.ca/news/more-profound-appreciation-complexity-natural-ice-formations
Pattern of inclusions inside rippled icicles https://journals.aps.org/pre/abstract/10.1103/PhysRevE.106.054211

つららの中の小さな泡は「空気」ではなく「水」で満たされていると判明!

つららの中の小さな泡は「空気」ではなく「水」で満たされていると判明!
つららの中の小さな泡は「空気」ではなく「水」で満たされていると判明! / Credit:Canva

寒い地方に住んでいる人なら、つららの中には小さな泡が多く含まれていることに気付いていると思います。

ほとんどの人はこの泡を「気泡」だと考えているでしょう。

しかしこれまで「つらら」内部の泡の形成過程や内容物について詳細に研究したものはなく、泡の正体が本当に空気の粒であるかどうかは不明でした。

そこで今回、トロント大学の研究者たちは塩や砂糖などの不純物を溶かした水溶液でつららを作ることで、泡の形成過程を可視化しその中身を調べることにしました。

不純物の濃度に応じて内部の泡の分布パターンや外観が違ってくる
不純物の濃度に応じて内部の泡の分布パターンや外観が違ってくる / Credit:John Ladan and Stephen W. Morris . Pattern of inclusions inside rippled icicles (2022) .PHYSICAL REVIEW E

すると上の図のように、不純物の濃度が増えるにつれつららの内部に層状の構造が現われ、ここに帯のように泡が生じることが判明しました。

不純物の濃度が高くなると泡も多くなって濁りが増え、つららの外観は波打つように変化していきました。

一方、不純物が一切存在しない純水でつくったつららでは泡がほとんど存在せず綺麗な円錐形の外観となったのです。

泡を拡大した様子
泡を拡大した様子 / Credit:John Ladan and Stephen W. Morris . Pattern of inclusions inside rippled icicles (2022) .PHYSICAL REVIEW E

上の図は層状に生じた泡の帯部分を拡大したもので、つららが大きくなるにつれて年輪のように泡が積み重なっている様子が確認できます。

この結果は、つらら内部の泡が出現するには不純物の存在が必要であることを示します。

左が不純物の濃度が低いつらら、右が高いつらら、真ん中は中間の濃度
左が不純物の濃度が低いつらら、右が高いつらら、真ん中は中間の濃度 / Credit:Antony Szu-Han Chen and Stephen W Morris . On the origin and evolution of icicle ripples (2013) . New Journal of Physics

さらに驚くべきことに、つららの外観を決定するのは塩や砂糖といった不純物の種類ではなく、不純物の濃度にのみ依存していることが明らかになります。

そのため研究者たちは「つららの外観は化学的な要因ではなく物理的な要因によって決定されている」と結論しました。

つららの不純物に蛍光色素を使うと泡の部分が緑色に光る
つららの不純物に蛍光色素を使うと泡の部分が緑色に光る / Credit:John Ladan and Stephen W. Morris . Pattern of inclusions inside rippled icicles (2022) .PHYSICAL REVIEW E

次に研究者たちは水に不純物として緑色に光る蛍光色素を溶かし込んだものを用意し、泡の形成過程を可視化すると共に、泡の正体を確かめることにしました。

もし泡の正体が気泡ならば、泡の内部は空洞となり緑に光ることはありません。

しかし実験を行ったところ、周囲のは光らなくなった一方で、泡の内部は逆に強く緑色に輝いていることが判明します。

この結果は、泡の中に不純物である蛍光色素が濃縮されて存在している可能性を示します。

そのため研究者たちは、つららの泡が気泡でなく高濃度の不純物が凝縮された溶液であり、凍りつかずに液体の状態になっていると結論し、この泡構造を気泡と区別するために「インクルージョン」と名付けました。

道路に塩をまいて凍結防止する様子
道路に塩をまいて凍結防止する様子 / Credit:Canva . ナゾロジー編集部

なぜ同じ液体同士なのに、気泡のような構造がつらら内に生まれるのでしょうか?

その理由は、凍結防止のため道路に塩(塩化カルシウム)をまく理由から説明できます。

水に塩を溶かすと通常より凍りつく温度(凝固点)が下がることが知られており、0℃より低い温度にならないと氷になりません。

例えば塩分濃度が22.4%の水溶液では凍りつく温度がマイナス21.2℃まで下がります。

このため雪国では道路に塩化カルシウムをまいて、道路の凍結を防いでいます。

同じような凝固点降下は実験で用いた蛍光色素でも起こることが知られており、つららの泡の内部では不純物濃度が高いために、つらら本体よりも凍りつくのが難しい状態になっています。

ほとんどの自然環境では、つららの本体は凍りついても不純物濃度が高い部分まで凍結させることができません。

そのため、内部に凍結ぜず液体のまま残った部分が形成され、それがまるで気泡の様に見えていたのです。

(※今回の実験も、自然なつららを作るために、水が凍結するギリギリの温度でゆっくり冷やされています)

ただ今回の研究では不純物の存在が、なぜつららの泡や外観を波状にするかは明らかにされませんでした。

研究者たちは今後の解明は、理論家たちに任せたいと述べています。

【編集注 2022.01.09 18:25】
記事内の誤字を、修正して再送しております。

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