シャチがヒレナガゴンドウの赤ちゃんを養子にしていた
シャチがヒレナガゴンドウの赤ちゃんを養子にしていた / Credit:Canva
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「シャチが親のない子クジラを育てる心温まる光景」研究者「誘拐された子です」

2023.02.28 Tuesday

「親のいない子供を養子として育てる」そんなエピソードは「優しく温かい話題」かもしれません。

ところが、その養子が誘拐された子供だったとしたら、印象は逆転して、一気に「恐ろしい話」に変わります。

実は、このような事件が海の動物たちの間でも生じたようです。

西アイスランド自然研究センターに所属するマリー・ムルスチョック氏ら研究チームが、メスのシャチがゴンドウクジラの一種「ヒレナガゴンドウ」の赤ちゃんを育てていたと報告しました。

しかもその赤ちゃんは誘拐された子だった可能性が高いというのです。

研究の詳細は、2023年2月17日付の学術誌『Canadian Journal of Zoology』に掲載されました。

Scientists Aren’t Sure if This Orca Adopted or Abducted a Baby Pilot Whale https://www.sciencealert.com/scientists-arent-sure-if-this-orca-adopted-or-abducted-a-baby-pilot-whale
First account of apparent alloparental care of a long-finned pilot whale calf (Globicephala melas) by a female killer whale (Orcinus orca) https://cdnsciencepub.com/doi/abs/10.1139/cjz-2022-0161?fbclid=IwAR04MGjrg8QSv2hIwP1zfPhiMvgTiFIGk6V9isbj2QvLowbwNEwRIbElZro

「クジラの子を養子にとったシャチ」は誘拐犯かもしれない

珍しい母親シャチを発見。サディスと命名される
珍しい母親シャチを発見。サディスと命名される / Credit:Canva

2021年8月、研究チームは、アイスランド西部の海で赤ちゃんと一緒に泳ぐメスのシャチ(学名:Orcinus orca)を発見しました。

このシャチは、「サディス(Sædís)」と命名されました。

サディスが注目されたのは、サディスと一緒に泳いでいた赤ちゃんがシャチではなく、ゴンドウクジラ属のヒレナガゴンドウ(学名:Globicephala macrorhynchus)だったからです。

研究チームの観察によると、サディスは単にヒレナガゴンドウの赤ちゃんに付き添っていただけではありません。

積極的に赤ちゃんの世話を行っていたのです。

また周囲には、サディスと同じ群れだと思われる2頭のシャチも一緒に泳いでいました。

シャチの隣の赤ちゃんはヒレナガゴンドウだった
シャチの隣の赤ちゃんはヒレナガゴンドウだった / Credit:Canva

対照的に、その赤ちゃん以外のヒレナガゴンドウは存在しなかったようです。

そしてヒレナガゴンドウの赤ちゃんは、サディスの胸ビレのすぐ後ろを泳いでいました。

これは、母クジラと子クジラに見られるポジショニングであり、子クジラは母親の体が生み出す水流に助けられて泳ぐのです。

つまりサディスとヒレナガゴンドウの赤ちゃんは、明らかに母親とその子供の関係にあったのです。

チームはこれを、「シャチがヒレナガゴンドウを養育した初めての科学的記録」としています。

一般的にヒレナガゴンドウの群れとシャチの群れは対立関係にあるため、この養育は極めて珍しいものだと言えます。

ヒレナガゴンドウ
ヒレナガゴンドウ / Credit:Canva

動物番組でこんな話題を見たら、動物が他種族の子どもを育てるなんて心温まるエピソードだと感動してしまいそうですが、生物学者たちの見解は異なるようです。

研究チームは、「サディスがヒレナガゴンドウの群れから、赤ちゃんを誘拐した可能性がある」と述べています。

なぜならアイルランド沖では、ゴンドウクジラがシャチを追いかける様子がしばしば観察されているからです。

研究チームは「シャチが度々ゴンドウクジラの赤ちゃんを誘拐しようとするので、ゴンドウクジラたちもシャチに敵対し、攻撃を加えるのではないか」と推測しています。

さらに彼らは、「サディスは自分の子供を産んだことがないので、代わりにヒレナガゴンドウの赤ちゃんを誘拐してきた可能性がある」とも指摘しています。

ヒレナガゴンドウの群れ。シャチを攻撃するのには深い理由があった
ヒレナガゴンドウの群れ。シャチを攻撃するのには深い理由があった / Credit:Canva

では、サディスの養子となった赤ちゃんは幸せなのでしょうか?

研究チームは、「赤ちゃんがやせ細っている」と述べました。

サディスは自分の子を産んでいないので、おそらく授乳できなかったのでしょう。

そして約1年後、チームは再びサディスを発見しました。

彼女はヒレナガゴンドウの群れに近づいていましたが、そこに養子の姿はありませんでした。

研究チームは、サディスが「死亡した赤ちゃんの代わりを補充しようと、新たな群れに近づいた可能性がある」と語っています。

ここまで来ると、サディスには狂気が宿っているようにしか思えません。

「微笑ましい養子エピソード」かと思いきや、実は「赤ちゃん誘拐事件を度々起こす恐怖の養母エピソード」だったのです。

サディスは今も虎視眈々と、新たな子供を手に入れるタイミングを狙っているのかもしれません。

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