レッドサークルの正体は「高高度発光現象」のひとつ
写真の中のレッドサークルは、ポッサーニョの町の上空にのみ浮かび上がったように見えますが、実際にはイタリア中部〜北部およびアドリア海にかけて直径約360キロの巨大さで出現しました。
専門家によると、レッドサークルの正体は「高高度発光現象(TLE:transient luminous event)」の一種だといいます。
![レッドサークルが出現した範囲(直径約360キロ)](https://nazology.net/wp-content/uploads/2023/04/elve_scale_strip.jpeg)
地球の大気層は、地上から高度約10キロまでが「対流圏」、約10〜50キロまでが「成層圏(オゾン層)」、約50〜80キロまでが「中間圏」、約80〜600キロまでが「熱圏(電離層)」です。
TLEは成層圏より上空で起こる発光現象を指します。
雷雲によって起きる放電には主に、地上と雷雲の間での放電(落雷)・雷雲の中での放電・雷雲同士での放電の3タイプに分けられますが、TLEは雷雲より上空〜電離層にかけて発生します。
TLEも発生プロセスや高度、特徴によって幾つかの種類に分類されますが、今回出現したレッドサークルは、電離層の下部でドーナツ状に広がる「エルブス(ELVES)」と呼ばれるものです。
![地球周回上から見た「エルブス」](https://nazology.net/wp-content/uploads/2023/04/689b6d1ca8cbf2b88fe5f2496e9157ba-900x435.jpg)
しかし、エルブスは雷雲があれば常に発生するものではありません。
エルブスを起こすには強力な電磁パルス (EMP)が必要なのですが、大抵の雷雲ではそれに十分な放電が発生しないのです。
ところが稀に、雷雲を伴う嵐の中で、通常の稲妻より少なくとも10倍は強力な放電が発生し、その電磁パルスが大気中を上昇することがあります。
この電磁パルスが中間圏にぶつかって、窒素を励起(れいき、外部からエネルギーを与えて原子や分子を高エネルギー状態に移すこと)すると、「スプライト(SPRITE)」と呼ばれる赤色の発光が生じます。
さらに、この打ち上げ花火のようなスプライトがそのまま上昇を続けて、熱圏の電離層下部に衝突すると、同じように窒素を励起させて、今度はドーナツ状に広がる発光現象が起こります。
これが「エルブス(ELVES)」です。
![雷雲の上空で起きる気象現象](https://nazology.net/wp-content/uploads/2023/04/Storm_hunter_infographics-343x600.jpg)
下の動画はスプライトが電離層下部に衝突してエルブスを発生させるシミュレーション映像。
![エルブスが発生するイメージ映像](https://nazology.net/wp-content/uploads/2023/04/Apr-05-2023-12-00-00.gif)
エルブスはおよそ1ミリ秒(0.001秒)の間に瞬間的に出現し、直径400キロ程にまで広がります。
ビノット氏によると、撮影当日はポッサーニョの南東約280キロにあるアドリア海沿岸の港湾都市アンコーナで大規模な雷雨が発生しており、その中で強力な電磁パルスが生じ、今回のエルブスを引き起こしたと考えられるそうです。
ビノット氏は2019年から発光現象の撮影を始め、これまで数百におよぶTLEの撮影に成功してきました。
しかしエルブスは出現時間が短いこともあり、地上からは捉えにくく、基本的には地球を周回する衛星から撮影されることがほとんどです。
![スプライトが電離層にぶつかってエルブスが生じる](https://nazology.net/wp-content/uploads/2023/04/b2454fdf135d3c002b0ff300a6e08489.jpg)
実際、エルブスが初めて知られたのは1990年にNASAのスペースシャトルに搭載されたカメラが偶然に撮影したおかげでした。
ビノット氏が撮影に成功したエルブスは「地上から撮影したものとしては史上最高のものになる」と言われています。
稲光や水滴が作るミルククラウンも私たちの肉眼で捉えることは難しい瞬間的な自然の造形ですが、世界にはまだまだ人間には見えない美しい自然現象が潜んでいるようです。