子宮に胎児がいない⁈ 「腹腔で赤ちゃんを妊娠」した極めて稀なケースが報告される
子宮に胎児がいない⁈ 「腹腔で赤ちゃんを妊娠」した極めて稀なケースが報告される / Credit: Guillaume Gorincour et al., The New England Journal of Medicine(2023), Wikimedia Commons
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子宮に胎児がいない⁈ 「腹腔で赤ちゃんを妊娠」した極めて稀なケースが報告される (2/2)

2023.12.18 Monday

前ページ10日間続く腹痛から妊娠が発覚!しかし胎児は「子宮」にいなかった

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極めて稀な「子宮外妊娠」の中でもレアケースだった

子宮外妊娠とはその名の通り、受精卵が通常の子宮内膜ではない場所に着床し、そこで胎児が発育してしまう現象であり、正式な医学用語では「異所性妊娠」といいます。

普通とは何がどう違うのかをわかりやすくするために、まずは正常な妊娠のプロセスを見てみましょう。

正常な妊娠では、精子が子宮頸管から子宮を通って卵管へと進み、卵巣から出された卵子と出会って受精します(下図を参照)。

受精は子宮内で起きると認識している人が多かもしれませんが、通常、受精は卵管で起きるのです。

受精卵になれるのはたった1個だけで、その後、受精卵は卵管から子宮へと戻っていき、子宮内膜に定着します。

これが「着床」です。

着床後は10日ほどで妊娠の反応が出て、胎児の発生が始まります。

また同時に、子宮上部に「胎盤」という円盤状の器官ができて、胎児と一緒に成長しながら、酸素や栄養分を送ったり、老廃物を取り除いたりします。

このまま順調に発育が進めば、妊娠37〜41週の正産期で元気な赤ちゃんが生まれます。

正常な妊娠のプロセス
正常な妊娠のプロセス / Credit: 東京都福祉局 – 妊娠のしくみ

受精卵が「卵管」に着床してしまう?

ところが子宮外妊娠では、受精卵が子宮まで戻ることができずに、それ以外の場所に着床してしまうのです。

最も多いのが「卵管」で、子宮外妊娠の約95%が卵管への着床となっています。

これは卵管が炎症や癒着、狭窄(きょうさく)を起こすことで、受精卵の通りが悪くなり、子宮までうまく運搬されなくなることが主な原因です。

また卵管は非常に細い管であるため、胎児が正常に育つことはできません。

胎児がそのまま大きくなると卵管の破裂や、それに伴う出血を引き起こす可能性があるので、放置するのは母子ともに危険です。

そこで通常は、卵管妊娠が発覚すると薬剤で発育を止めるか、胚の摘出手術を行います。

卵管に受精卵が着床するイメージ(そこで発育すると卵管が破裂する危険性も)
卵管に受精卵が着床するイメージ(そこで発育すると卵管が破裂する危険性も) / Credit: Planned Parenthood Federation of America

しかし一方で、ごくごく稀に子宮の外の「腹腔(横隔膜の下〜骨盤の上の腹部内に広がるスペース)」に受精卵が着床するケースがあります。

腹腔での妊娠は本当にレアケースで、子宮外妊娠そのものが妊婦全体の2%未満で起こるのに対し、腹腔妊娠はさらにそのうちのわずか1%にしか起こりません。

これは卵管に破裂による穴が生じることで、そこから受精卵が腹腔内に流出するために起こるといわれています。

また腹腔は卵管と違ってスペースがあるため、胎児も発育を続けることができるのです。

腹腔妊娠のイメージ(womb:子宮、placenta:胎盤、ruptured right oviduct:卵管の破裂部分)
腹腔妊娠のイメージ(womb:子宮、placenta:胎盤、ruptured right oviduct:卵管の破裂部分) / Credit: Psychology Todday (Source: Image from Wikimedia Commons)

それでも腹腔には、胎児を妊娠27〜41週の正産期まで育てられるほどのスペースや機能はありません。

だいたい妊娠中期(16〜27週)の間で周囲の臓器を圧迫し始め、母体に強い腹痛を引き起こします。

胎児の方も子宮内膜のクッションに包まれていないため、衝撃などの影響に弱く、発育に障害が出る可能性があります。

そこで今回の女性は、腹腔妊娠が発覚した23週目から入院して、注意深くモニタリングされ、妊娠29週目で開腹手術により胎児を取り出しました。

妊娠36週未満では早期出産となるため、赤ちゃんはすぐさま集中治療室に移されて、医療サポートを受けています。

母親の方は腹腔に残った胎盤を除去する追加の手術を受けました。

幸いにも母子ともに健康な状態まで回復し、その一カ月後には赤ちゃんも女性と一緒に退院することができたそうです。

ただ医師によると、その後の経過観測ができていないため、現在の母子の健康状態は分からないという。

しかし、この難しい出産を乗り越えた赤ちゃんなら、きっと無事に育ってくれるのではないでしょうか。

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