なぜプルプル状態の脳が一番長持ちするのか?
なぜ最も腐りそうなプルプル状態が一番長持ちするのか?
今回の研究ではそのメカニズムについても予測が行われています。
軟組織が超長期にわたって存続できるかを決める第1の要因は、微生物などによる腐敗や分解を避けられるかにかかっています。
乾燥・凍結・皮革化が有効なのは、水分が排除されることで、微生物の活動が妨げられるからです。
また脳が腐らず乾燥・凍結するような環境では、通常、気温も微生物の活動に不向きな場合が多くなります。
しかし微生物の活動を抑えるだけでは、1万年を突破することは困難です。
そこで研究者たちが着目したのが、脳だけに起こる可能性がある、特殊な分子架橋の仕組みでした。
これまで発見された軟組織の化石の多くは、タンパク質・脂質・糖といった生体分子が組織中で結合(架橋)することで、化学的に安定した重合高分子を形成していることが知られています。
特に硫黄を含むアミノ酸残基は隣同士で架橋し合う性質が知られており、時の試練に耐える強固な分子結合をうみだせます。
脳細胞は信号伝達の仕組みとして硫黄を含むアミノ酸が多数存在していることが知られており、他の軟組織よりも架橋が起こりやすくなっていると考えられます。
![分子架橋と金属錯体の化学的プロセスが、未知の保存メカニズムを支えている可能性がある。 (a)ポリペプチド内およびポリペプチド間の正常な生理学的過程で形成される共有結合架橋は、タンパク質の構造と機能を決定する上で極めて重要である。(b)初期の架橋には、反応性の高いアミノ酸残基が優先的に関与する。 (c) 細胞内鉄酸化還元サイクルは、脂質過酸化を誘導する活性酸素種(ROS)を生成しその結果、分子架橋に利用可能となるRCSが生じる。](https://nazology.net/wp-content/uploads/2024/03/c59667a388adbcb9025215884d4c6761-614x600.jpg)
他にも神経組織を化学的に安定させる方法としては、鉄などの金属錯体を利用した無機物領域の形成や、鉄を使った架橋の仕組みが存在します。
発見された脳の中には酸化鉄によって覆われ、表面が赤オレンジ色になっているものも存在します。
研究者たちは、超長期にわたって保存されてきた脳を分子レベルで調べることができれば、生体組織を地質学的なスケールで存続させる仕組みがわかるだろうと述べています。
また保存されている脳は、生体分子の情報源としても有用です。
これまで鉄器時代の歯などからは100個のタンパク質が回収され、石器時代の指の骨からは15個のタンパク質が回収されました。
しかし保存された脳からは738個ものタンパク質が得られ、骨に比べて軟組織が大量の情報を持っていることが示されました。
また採取された臓器を比較した試験でも、脳が最も多く高品質なDNAを抽出できることが判明しています。
もし古代の脳のニューラルネットまで調べられるようになれば、古代人の記憶ものぞけるようになるかもしれませんね。