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「いったん休むと中々動けない」問題、人間の本質だった

2021.01.27 Wednesday

2018.09.22 Saturday

Point
・身体を動かそうという意思があってもついゴロゴロしてしまうのは、理性と感情の衝突で生じる「身体活動パラドックス」の影響
・生命維持のため無駄なエネルギーを使うのを避けようとする本能に反して、理性の力で運動するには多くのリソースが必要である
・現代社会では、労力の節約に役立つ道具を使うよりもむしろ、労力を使うように促す工夫が必要

「人をダメにするソファー」で人がダメになるのも無理はありません。人間は本来、怠惰な生き物なのです。

過去の研究で、人は「運動する意思があっても実際には運動しない」場合が多いことが明らかになっています。ジュネーブ大学とジュネーブ大学病院の研究チームが、この時に脳内で起きている現象を調べた結果、理性の力で運動しようとするには多くのリソースが必要であることがわかりました。

研究チームはこれまで、身体を動かす「活発な」選択肢か、何もしないでゴロゴロする「不活発な」選択肢を選ぶ際の、ニューロンの活動を研究してきました。そして人間の脳は、労力を最小化しようとする情動を避けるためにかなりのリソースを必要とすることが明らかになっています。

これは「健康のために運動しなければ」という理性に基づく「制御システム」と、「運動にともなう不快感や疲れを避けたい」という感情に基づく「自動システム」が衝突するためです。その結果、「ソファーから立ち上がって身体を動かそうと思っても、身体が言うことを聞かない」といった「身体活動パラドックス」の現象が生じ、結局は運動せずに座ったままで何もしないままになると考えられています。

そこで研究チームは、被験者29名のニューロンの活動を観察しました。彼らは、日頃から活動的でいたいと考えてはいるものの、必ずしもそれが実践できているわけではない人たちです。身体を動かすことと動かさないことのどちらかを選択する際の被験者の脳の活動を、64個の電極から成る脳波計を用いて詳細に調べました。

被験者が支持された行動は、「マネキン・タスク」という作業です。このタスクは、身体活動を行う様子を描いた「活発な」絵、もしくは座ったままで活動していない様子を描いた「不活発な」絵から、人型アイコンを近づけたり遠ざけたりするというものです。

そして「不活発な」イメージに近づけるのに要した時間と、そこから遠ざけるのに要した時間を比較したところ、遠ざける方が0.032秒短いという結果になりました。微妙な差のようにも思えますが、このようなタスクにおいては顕著な違いです。この結果は、一見「身体活動パラドックス」とは矛盾しているように思えますが、その答えは「理性の力」にあるようです。被験者が「不活発な」イメージに近く速度よりも、そこから遠ざかる速度の方が速かった理由の一つは、「身体活動を行おうとする意思に沿って行動した」からだと考えられます。私たちを身体的労力を最小化するように駆り立てる「自然な情動」をすばやく断ち切り、「不活発な」行動を避けるには、多くのリソースが必要だと言えそうです。

さらに研究チームは、被験者が「不活発な」イメージを選ばなければならなかった時、脳内の“fronto-medial cortex”と“fronto-central cortex”という2つの領域に関与している電気的活動がより活発になることを発見しました。“fronto-medial cortex”は理性と感情の間の葛藤を、“fronto-central cortex”は自然な情動を抑制する機能を担っています。

「ヒトの進化の過程では、身体的労力をできるだけセーブすることが極めて重要でした。エネルギーを無駄遣いせず節約することで、生存や生殖のチャンスが増えたのです」と、研究を率いたボリス・シュバル氏は説明しています。ところが、現代社会では、このようなエネルギー最適化は時代遅れのものとなりました。

巷には、エスカレーターやエレベーターといった誘惑があふれています。しかし現代人にはむしろ、身体活動を促す仕組みが必要なのかもしれません。公共のスペースを設計する際も、運動を促すようなデザインを用いるなどの工夫などができたら良いですね。

「やる気スイッチ」の脳内メカニズムが明らかに

via: medicalxpress / translated & text by まりえってぃ

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