触感にあって視覚にないのは「安心感」だという研究

philosophy 2018/10/24

Point
・手でものに触れることで対象の正確な情報を得られるわけではなく、その点ではむしろ視覚のほうが優れている
・触覚によって人間が得ているのは、「対象がある」という安心感である

美術館では毎年、来館者が直接展示品に触り芸術作品が傷ついてしまうというケースが発生しています。目ではっきり見えているにもかかわらず、私たちはなぜ手で直接ものを触ろうとするのでしょうか。視覚にはない、触覚だけが与えてくれるものとは?

LMU(ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン)の研究によると、人間は対象に関する曖昧な情報に直面したとき、目で見るよりも指先で触ったほうが信頼できるということが判明しました。研究は10月23日にNature Scientific Reportsで発表されています。

Confidence is higher in touch than in vision in cases of perceptual ambiguity
https://www.nature.com/articles/s41598-018-34052-z

「触覚」について、17世紀に活躍したフランスの哲学者であるルネ・デカルトは、「私たちはものに触れることで外の世界と直接的につながっているという現実の感覚」を得ていると説明しています。

例えば、私たちの中にはスクリーンをタップする「スマートフォン」よりも、直接ボタンを押すことのできる「ガラケー」のほうを好む人もいまだに多くいます。また、臨床的な研究では、強迫観念にとらわれた患者たちは、目で見えているのにもかかわらず蛇口の栓やドアの鍵がきちんと閉まっているかを直に触って確認しないと気がすまないことが報告されています。

これは「トマス効果」と呼ばれ、新約聖書に登場するイエスの使徒トマスに由来しています。聖書では、トマスは復活したイエスを実際に見るだけでは飽き足らず、イエスのわき腹の傷に自らの手を直接差し込んで、その身体の存在を確かめたと記載されています。

研究チームが行ったのは、視覚と触覚の両方にかかわる知覚的錯覚についての実験です。例えば、同じ長さをした二本のマッチを、逆さT字のかたちにして被験者に見てもらいました。そして、他にもマッチの長さをいろいろ変えて実験してみたところ、被験者は触覚よりも視覚によるほうが正確に長さを判断できることがわかりました。

つまり、対象の正確な知覚判断には視覚だけで十分だということです。しかし、被験者は長さの判断が難しい場合、目で見たときよりも直接手で触れたときのほうがより自信をもって判断していたということも判明しています。

以上のデータから、知覚する対象が曖昧であるとき、触るという感覚は正確な情報を得るという以上の何かがあると考えられます。研究者は、「手で触ることはわたしたちの気分を落ち着かせ安心感を与えてくれるものではないか」と話しています。「触覚はもっとも信頼できる身体感覚である」といったデカルトは間違っていなかったのです。

このように触覚による対象の確認は、ドアの閉め忘れや栓の閉じ忘れといった些細なことの確認ではなく、触れることによって得られる安心感ということに大きく依存しているのです。確かに、臨床や介護の現場においては、直接体に触れることで患者の感じている不安を緩和させ、親密度を高めるという結果も報告されています。

つまり、手で触れるといった身体的な接触の欲求は、私たちが安心や信頼を求めることから生じているのです。

 

via:eurekalert.org / translated & text by くらのすけ

 

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