chemistry

「ゲノム編集技術は危険」は本当なのか?

2021.01.27 Wednesday

2019.02.10 Sunday

Credit: CC0 Creative Commons
Point
・中国で双子を誕生させた「クリスパー・キャス9」というゲノム編集技術は、子宮頸がんの治療にも応用可能
・ゲノム編集は自然界の突然変異を人工的に行えるようにした技術
・ゲノム編集技術には課題もあるが、きちんと管理すれば新しい治療法につながる可能性

昨年11月、中国でゲノム編集を使用した双子が生まれたことがわかり、世界中が衝撃を受け、かなりの批判を受けました。しかしゲノム編集という技術は、意外にも身近に存在するのです。

今回はその危険性と可能性について紹介します。

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中国の双子の受精卵は、「CRISPR-Cas9(クリスパー・キャス9)」というゲノム編集技術によって遺伝子を操作されていました。その目的は、父親が感染していたエイズが子どもへ感染しないようにすることです。クリスパー・キャス9とは、キャス9というタンパクで、DNAをチョキンと切って遺伝子を削除したり、切ったところに別の遺伝子を入れたりする技術を指します。

今年の2月、同じクリスパー・キャス9の技術を子宮頸がんの治療に使う研究が報告されています。子宮頸がんでは、がん細胞がE6というタンパクを持つと増殖が促進します。このE6の遺伝子をクリスパー・キャス9の技術で変異させると、がんの成長が抑えられることがわかりました。

中国の双子に行われたゲノム編集の問題はそれが受精卵に行われたという点で、受精卵では操作された遺伝情報が子孫まで受け継がれてしまいます。しかし同じゲノム編集でも、受精卵が分裂したあとの「体細胞」に行った場合、効果は本人に限定されます。子宮頸がんの細胞にゲノム編集を行ったとしても、それが子どもに遺伝することはないということです。

ところで、ブタはイノシシの突然変異であることを知っていますか?ブタは、家畜化したイノシシから突然生まれたのです。また、ブロッコリーはケールの突然変異です。私たちが口にする動植物で、突然変異によるものは他にもありますが、この突然変異で起こることを人工的に行えるようにしたのがゲノム編集技術です。

またゲノム編集に似た技術に「遺伝子組換え」がありますが、遺伝子組換えでは操作を細胞の「外」で行います。一方、ゲノム編集は細胞の「中」で操作します。この遺伝子組換えの技術は、トウモロコシなどですでに普及 しているものです。

Creedit: The He Lab

双子の誕生は、香港で開催されていたヒトゲノム編集に関する国際会議でも報告され、多くの批判を受けました。この会議では、ゲノム編集技術を人へ利用するためのルール作りが議論されており、双子の誕生を受けてさらなる議論が展開されています。クリスパー・キャス9によるゲノム編集の技術はまだ新しく、その効果や安全性、管理方法など多くの課題が残っているのです。

双子の誕生はセンセーショナルに報じられ多くの批判を受けましたが、ゲノム編集の技術そのものは難病の新しい治療法となる可能性があります。以前ナゾロジーでは、遺伝子組換えに抵抗が強い人ほど、その知識が少ないことをお伝えしました。知らない技術だからとむやみに怖がらず、情報を収集し、みんなで考えてみる必要があるでしょう。

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reference: nikkei, ncbi / written by かどや

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