つる草は害虫のいる植物には巻き付かないことを初めて発見
Point
■研究者が「賢さ」で有名なヤブガラシなら害虫であるハダニを避けるだろうと予測
■結果は予測通り、ヤブガラシはハダニがいるマメに触れると激しく縮れて離れ、巻き付かないことが判明
■将来は植物の「賢さの差」を利用した夢のつる草フェンスができるかもしれない
論文中の図に「ヒャッハー」は中々レア。
京都大学大学院農学研究科 矢野修一 助教らが、つる草のヤブガラシは害虫ハダニのいる植物には巻きつかないことを世界で初めて発見した。
そこで話題になっているのが、この論文中のユニークな図も含め、研究者の粋な視点だ。
研究は4月29日付けで「Scientific reports」に掲載されている。
Vines avoid coiling around neighbouring plants infested by polyphagous mites
https://www.nature.com/articles/s41598-019-43101-0
つる草の賢い生存戦略ーッ!
しかし相手の植物にふれると、その植物にいるハダニなどの飛べない小型の害虫にみすみす進入路を与えてしまうことになる。よってつる草としては、この一大事を避けるべきなのだ。
実はヤブガラシの「賢さ」は、少し前から注目されていた。ヤブガラシの巻きひげ(他植物に巻きつくための器官)は、巻きつく相手の植物が身内のヤブガラシかどうかを識別し、身内には手心を加えて共倒れを防ぐ能力を持っているのだ。
それほど賢いヤブガラシの巻きひげならば、害虫のハダニがなだれ込むかもしれない一大事を感知できるに違いない。そう予測したのが、矢野氏らだった。
そこで彼らは、つる草といえば誰もが思いつくアサガオと比べ、ハダニがいる植物に対するヤブガラシの反応を調べた。
ヤブガラシ「おっと危ない」
矢野氏らは、アサガオのつるとヤブガラシの巻きひげが、ハダニがいる植物をそれぞれどのように避けるかどうかを調査。
つるや巻きひげの動きの方向を見極めて、予測進路にハダニがいるマメ株またはいないマメ株を置いて、巻きつく割合を比べた。

すると、アサガオはどちらにも巻き付いてしまったが、ヤブガラシの巻きひげはハダニがいるマメに触れると激しく縮れて離れ、巻き付かないことが判明。
この結果は、つる草がハダニのいる植物に巻きつくのを止めてハダニの「接触感染」を防ぐことを示す初めての例だ。

ではヤブガラシは何に反応してハダニを避けているのだろうか。
さらなる実験の結果、ヤブガラシは加害されたマメの匂いや巻きひげに侵入するハダニではなく、ハダニが植物表面に張る網を感知して避けることがわかった。

このヤブガラシの『賢さ』を逆手にとれば、アサガオなどの『賢くない』栽培植物は巻きつくが、『賢い』雑草は巻きつきにくい…といった、夢のフェンス素材が開発できるかもしれない。
また今回の研究で特筆すべきは、研究者のユニークな視点だろう。彼らは「ハダニがいる植物をつる草が避ける現場を目撃したから」発見できたのではなく、「ハダニがいる植物をつる草が避けるべきだと理詰めで予測して調べたら、本当にそうだった」という。
「あるがままの世界を観察して面白い現象を探すのもひとつの方法ですが、生き物は賢いはずだという色眼鏡で世界を眺める方法も楽しいですよ」とコメントしている。
研究内容のリリースでは、実験で使ったコマ落とし撮影方法の説明や、夏休みの自由研究にオススメする1文もあった。非常に親しみのある文体で書かれており、研究者の生き物への敬意と研究への愛がより身近に感じられた研究だった。
何者にもなれなかったアサガオのためにも、つる草を見かけたらその賢さを観察して確かめてみて欲しい。