世界初の多次元量子テレポーテーションに成功

quantum 2019/08/26
Credit:megan bates

Point

■オーストラリアと中国の科学者が3次元量子状態の量子テレポーテーションに初めて成功した

■これまでの量子ビットは2次元の情報しか持つことができなかったが、この方法は原理的には任意の次元に拡張が可能だという

■この研究は、量子ビットの情報容量を拡張子、量子コンピュータや、量子インターネットの実用化に革新的な可能性をもたらしたと言える

SF世界の話の様にしか聞こえない、量子テレポーテーションという単語ですが、オーストラリアと中国の科学者による、国際研究チームが3次元量子テレポーテーションの実験に成功したそうです。

これまでの、量子テレポーテーションは、「0」と「1」の二次元情報しか扱えませんでした。しかし、理論上は多次元量子テレポーテーションは可能だろうと言われており、この度その実験について、初めて成功報告が出たのです。

この研究論文は、8月15日にアメリカ物理学会が発行するPhysical Review Lettersに掲載されています。

量子もつれってなに?

量子テレポーテーションが何かを理解するには、まず量子もつれについて知る必要があります。

量子もつれとは、例えば自転(スピン)の向きがわかっていないけれど、互いに反対方向に自転しているとわかるような状態のペアの粒子を指します。

これは距離などは関係なく、片方の粒子が右回転していることを観測すると、もう片方が即座に左回転に決定されるという不思議な性質を持っています。

これは「初めから状態は定まっているけれど、単に状態を観測していないからわからない」という意味ではありません。

例えば、赤いボールと青いボールを別々の箱に詰めて、どっちがどっちかわからないようにした上で、片方の箱を開けたら赤いボールが入っていたので、即座にもう片方の箱の中が青いボールだとわかる、という理解の仕方は間違いになります。

こういう例えは古典力学的な考えのもの。これでは量子もつれの何が不思議なのかわからなくなってしまうでしょう。

量子論的な考え方では、観測するまで状態は定まらないというところが重要になります。

この場合には、例えばLEDで赤か青に光るボールを考えてみてください。このボールはペアになっていて、片方を赤色に点灯させると、もう片方が即座に青く点灯するというギミックを持っています。

これを同じ様に2つの箱に詰めましょう。最初は無灯火の状態ですが、箱を開けるとランダムにどちらかの色にボールは点灯します。あなたが箱を開けるとボールが赤に点灯しました。このとき、もう一方の箱の中のボールは即座に青く点灯しています。

こんなギミックが付いていたら、当然ボールになんらかの通信機器が備わっているんだろう、と考えるのが自然です。しかし、調べてみてもこのボールには何の通信機器もついていませんでした。

そうなると「何このボール、気持ち悪い」と感じることでしょう。量子もつれはまさに、そのようなことが起こる現象です。そのため、アインシュタインは量子もつれについて、「薄気味悪い遠隔操作」と呼んだのです。

勘違いされがちな量子テレポーテーション

量子テレポーテーションはその名前から、離れた場所に粒子がワープするようなイメージを持ってしまいがちですが、実際は量子もつれによって別々の粒子の間でなんのやり取りもなく情報が伝わる現象を指しています。

じゃあ何光年も離れた場所同士で、いきなり情報を伝えるような超高速通信が実現できる現象なのかというと、それもできません。

がっかりされそうですが、量子テレポーテーションでは、どっちが状態を確定させたのかということはわかりません。この方法で情報をやり取りするには、結局古典回線(通常の電話やネットなどの回線)で答え合わせをする必要があるのです。

それに任意に粒子の状態を確定させることができないので、例えば「0」か「1」の状態について、観測によって確定はできますが、「0」を観測して相手に「1」を伝えるということができません。どっちになるかは観測するまでわからないのです。

「じゃあ、何の役に立つんだよ!」と言われてしまいそうですが、これは通信のセキュリティを高めるために役立つと考えられています。

量子もつれは観測によってもつれ状態が崩壊するため、盗聴すると即バレしてしまいます。こうした量子テレポーテーションの性質を利用すると、絶対に盗聴されない情報通信が実現できるといわれているのです。

これが量子インターネットと呼ばれる次世代の通信方法です。

量子テレポーテーションとか量子インターネットという技術が実現されれば、無線で5Gを遥かに超える超高速通信が実現できる、と期待していた人もいるかもしれませんが、残念ながらそうはなりそうにありません。

どうやって実験しているの?

気になるのは、このワケのわからない実験をどうやってやっているのか、という点でしょう。量子もつれは、現在は比較的簡単に作ることが可能です。

一般的な方法は、ホウ酸塩の結晶に、紫外線レーザーをぶつける方法です。この方法を使うと、1つの光子が結晶で2つの光子に分裂します。この分裂した光子は、エネルギーや運動量を一定に保って対照的に分かれて飛び、両者が区別できないもつれ合いの状態を作ります。

Credit:NANOELECTRONICS

このもつれ状態の光子は、さらにそれぞれの光子がとり得る経路によって量子状態をデータ化しています。この光の経路は3本の光ファイバーとして考えることができます。

量子実験では、1つの光子を3本の光ファイバーに同時に配置することが可能です。これによって3つの量子状態を、データとして取り扱うことができるようになり、同じく3本の光ファイバーに分けた、もつれ関係にある別の光子へ状態をテレポートさせることができたというのです。

3つのパラメータを転送できるということは、3次元情報を量子テレポーテーションで取り扱うことができたということです。

実験図。Credit:Yi-Han Luo/Quantum Teleportation in High Dimensions

これは原理的には、3次元だけでなく、もっと多次元の情報も扱うことも可能だといいます。

高次元量子システムは、量子インターネット実用化の重要な一歩となるだけでなく、結果的に量子コンピューターで扱える情報容量を増やせる可能性も秘めています。

さっぱり何をやっているのか、わからない研究ですが、いずれ社会に実装される時が来れば、そのすごさを実感できるように成るのでしょう。たぶん。

世界初!「量子もつれ」の画像撮影に成功

reference:phys,s-graphics/ written by KAIN

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