恐怖記憶を忘れさせる薬
次に研究者は、薬を使って海馬と偏桃体の間の「恐怖回路」の遮断を試みました。
薬によって、マウスが条件付けされた光や臭いに対して反応しなくなれば、更なる証拠になります。
そこで研究者は「アニソマイシン」をマウスの脳に注射しました。
すると、マウスが凍結化する割合が大きく減少したのです。
アニソマイシンは抗生物質の一種で、脳内に直接投与されると、偏桃体にある細胞の物質合成を阻害することが知られています。
研究者は物質の合成が阻害された結果、偏桃体が海馬との「恐怖回路」を維持できなくなったと考えました。
アニソマイシンには他にも奇妙な薬理が知られており、記憶を思い出している時にアニソマイシンを脳内に投与されると「そのとき思い出していた記憶だけが消える」ことが知られています。
仕組みが解明されれば、望んだ記憶だけを消せる「記憶編集技術」が実現するでしょう。
近年の急速な脳科学の進歩により、アニソマイシン以外にも、記憶に干渉できる多くの薬が発見されています。
そのため消せる記憶も短期的なものから長期的なもの、さらに人格にかかわる記憶などにも影響を与えられるようになっています。
いつの日か、トラウマやPTSDだけでなく、都合の悪いことは全て忘れて別人になれる日が来るかもしれないですね。
ただ、それが幸せなことなのかは、まだ誰も知りません。