- 現代の流体力学は感染対策を向上させる
- くしゃみは6m以上も飛沫を飛ばすため、2mのソーシャルディスタンスでは不十分かもしれない
- 現在のマスクの多くは内部保護を目的として設計されているため、飛沫を排出させない「外部保護」効果が弱い
科学が猛スピードで進歩しているにも関わらず、呼吸器系の感染病を避けるためのアドバイスはほとんど変わっていません。
事実、歴史上最も致命的なパンデミックの1つである1918年のスペイン風邪以降、「安全な距離を保つ」「石鹸と水で頻繁に手を洗う」「鼻と口をマスクで覆う」という指示に変更や追加はありません。
これらは、「ウイルスは飛沫を介して広がる」という理解に基づいています。
しかし、その理解から100年経った今でも、飛沫がどのように広がるかに関しては、ほとんど謎に包まれています。
米国ジョンズホプキンス大学のラジャット・ミッタル氏は、呼吸器疾患の流体力学をさらに研究することが、新型コロナウイルスのパンデミックを食い止める鍵であると考えています。
彼は自身の論文で、流体力学が、感染やマスク着用における対策に改善をもたらすことを説明しています。
流体力学によって感染のリスクを正しく知る
そもそも、感染は飛沫の数や大きさ、速度などの様々な要因によって大きく左右されるものです。これは、呼吸・会話・咳・くしゃみがそれぞれ異なった仕方で飛沫を広める事を示しています。
最初に、飛沫の大きさについて考えてみましょう。
小さな粒子の飛沫は、空中を浮遊し、より遠くまで移動します。そのため、吸入による感染の可能性が高くなります。
大きな粒子の飛沫は、空気中を浮遊しませんが、飛沫が付着した表面を汚染します。ですから、触ることによって感染症を引き起こす可能性が高いのです。
次に、この点を踏まえて、飛沫の数について考えてみましょう。
くしゃみは数千個の大きな飛沫を高速で排出しますが、咳は、その10分の1もしくは、100分の1ほどの数しか排出しません。
そして、呼吸は1秒間に50個ほどの飛沫粒子しか排出しませんが、その大きさは極めて小さいものです。つまり、数分呼吸するだけで、相手が吸引しやすい粒子を数千個以上排出したことになります。
ですから、咳やくしゃみなどの間欠的な要因よりも、1日中呼吸することの方が感染の原因となる可能性が高いかもしれないのです。
また、飛沫が届く距離についても考えてみましょう。
論文によると、現代の「人と2mの距離を保つ(ソーシャルディスタンス)」指示は、W.F.ウェルズ氏の研究(1934年)に由来するものだろうと推測されています。
この研究によると、呼吸や咳の際に排出される飛沫は2m未満ですが、くしゃみから排出される大きな飛沫は6m以上も飛ぶ可能性があるとのこと。
この違いを理解しておかなければ、ソーシャルディスタンスを意識したとしても、感染のリスクを効果的に減らすことはできないでしょう。