ヒトの目を超越した人工眼球「EC-EYE」とは

technology 2020/05/21

EC-EYEのイメージ図 / Credit: YAYING XU、©OFANTASTIC COLOR ANIMATION TECHNOLOGY CO.、LTD.

AIや電子工学の急速な発展とは裏腹に、いまだSF作品に出てくるようなサイボーグ技術は実現していません。

マシーンを生身の肉体につなぎ合わせるのは、非常に難度の高い技術だからです。

しかし現在、香港科技大学とウィスコンシン大学マディソン校の共同研究により、人工眼球「EC-EYE(ElectroChemical EYE)」の開発が進められています。

ヒトの目を忠実に模倣しており、ホンモノをしのぐ鮮明な視力を実現できるかもしれません。

EC-EYEは現時点でどこまで完成に近づいているのでしょうか。

ホンモノの眼球を忠実に再現

ヒトの目の視力や広い視野は、眼球の奥にある「網膜」というドーム型の器官に支えられています。網膜は、視覚的な光情報を検出する細胞に覆われており、その情報を神経信号に変換して、脳に伝達する重要な場所です。

研究チームは、網膜を再現するため、光への感度が高い材料を用いたナノサイズのセンサーを開発。それをドーム型に湾曲させた酸化アルミニウム膜に散りばめることで、人工網膜を作成しました。

下図の赤い部分に見られる点々がナノセンサーです。

球状の人工網膜はシリコン製のソケットに固定され、虹彩を模したレンズが前面に設置されます。EC-EYEの直径は約2センチです。

眼球内部には、硝子体(レンズと網膜の間のジェル)の代替えとして、イオン液体を充填します。これにより、ナノセンサーを電気化学的に機能させられます。

網膜(黄)、硝子体(オレンジ)、虹彩(緑)/Credit: ja.wikipedia

人工網膜は、光への感度が高く、反応時間はヒトの目を越えます(ヒトの目が約40〜150ミリ秒の反応時間を要するのに対し、ナノセンサーは30〜40ミリ秒以内)。

しかし、視野についてはヒトの目(150〜160度)に劣っており、最大で100度が限界のようです。

EC-EYEの表面、レンズ部分

問題はワイヤーの「太さ」

人工網膜には、平方センチメートルあたり約4億6000万個のナノセンサーが搭載されています。ヒトの網膜の場合、ナノセンサーに当たる光検出細胞の数は約1000万個ほどです。

そのためEC-EYEは、高い視力だけでなく、薄暗い中でモノを見ることもできると考えられています。さらに、理論的にはヒトの目よりもはるかに高い解像度で世界を見ることもできるでしょう

しかし、そこには問題点もあります。

ナノセンサーには、光情報を脳に伝達する管として「ナノワイヤー」が繋がれます(先のEC-EYE図の右側を参照)。しかも、それぞれのセンサーから個別の読み取りが必要になるので、センサーの数に応じて1本ごとにワイヤーを繋がなければなりません。

ところが、現段階のプロトタイプでは、ワイヤの直径が1ミリに達し、これでは1本で多くのセンサーを塞いでしまうのです。

現段階のワイヤは太すぎる

そこで研究チームは、20〜100マイクロメートルの極小センサーを作成しました。研究主任のZhiyong Fan氏は「マイクロワイヤーの取り付けは、まるで外科手術のような作業でした」と話します。

1マイクロメートルは、1ミリの1000分の1ですから、多くのワイヤー接続が可能になります。

しかし、センサーは「ナノ」のレベルですから、これでもまだ不完全です。1ナノメートルは、1マイクロメートルをさらに1000分の1にした大きさに相当します。

億単位のナノワイヤーを繋ぐとなれば、目には見えないレベルまで極限に細くしなければなりません。そこまで細くしてもワイヤーはまだ機能するのでしょうか。

Fan氏は「将来的には、EC-EYEを高性能な義眼やヒューマノイドロボットに応用したい」と話しますが、技術が理想に追いつくかどうかが焦点となりそうです。

 

研究の詳細は、5月20日付けで「Nature」に掲載されました。

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reference: sciencenews / written by くらのすけ
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