ハゲ治療に革命が! iPS細胞から「髪が生えた皮膚」を作ることに成功

biology

iPS細胞(万能細胞)から毛のはえたヒトの皮膚を創り出すことに成功。マウスへの移植も同時に成功した/Credit:nature(文字はナゾロジー編集部が記入)
point
  • iPS細胞から毛の生えた皮膚細胞を創り出した
  • 培養過程で皮膚の内外が裏返ったが、移植により正常な位置を取り戻した
  • 髪の生えた皮膚を無制限に創り出せれば、医療研究が加速する

薄毛治療といえば、新しく毛を生やす「発毛」よりも今ある毛を強くする「育毛」に焦点が当てられ、発毛技術の開発はあまり進んでいません。

そんな中、今回行われた研究によって、人間のiPS細胞(万能細胞)から、毛が生えた皮膚を作ることに成功しました。

本人のiPS細胞から作られた、この「毛が生えた培養皮膚」は移植しても拒絶反応を起こさず、薄毛を根本的に治療する方法になるかもしれません。

複雑な構造を持つ皮膚の細胞を、一体どうやって作り出したのでしょうか?

培養皮膚は異形へと成長する

なぜ培養すると体の内側と外側が入れ替わってしまったのかは、わからない/Credit:nature(文字はナゾロジー編集部が記入)

皮膚は、外部ストレスから体を守るだけでなく、触覚を伝える神経や脂を分泌する皮脂腺や脂肪組織を備えた多層臓器であり、これまでの技術では、その複雑な機能と構造を再現するのは困難でした。

しかし研究チームは上の図のように、iPS細胞(万能細胞)から表皮と真皮を作り出し、それらを互いに相互作用させることに成功したとのこと。

実験で培養皮膚は順調に成長していきましたが、培養開始から70日目、妊娠中の胎児が毛を生みだす「毛包」を作り始める時期になると、培養皮膚は異様な形態に成長しました。

培養した皮膚では本来、内側にあるはずの毛根部分が外側に向けて突き出ている/Credit:nature(文字はナゾロジー編集部が記入)

なんと培養皮膚はあたかも、体の内面と外面が裏返しになったような構造になり始めたのです。

毛包の方向も逆であり、毛の根元が皮膚から離れる方向に向かって伸びていきました。

120日目を過ぎると裏返しはさらに激しくなり、皮膚の表面側で神経や皮脂腺、軟骨といった内部の組織がつくられはじめる一方で、表面から裏面へ向けて毛が生えてきたそうです。

140日が経過する頃には、表皮・真皮・脂肪・皮脂腺・毛包・感覚神経などが主要な組織が、全て裏返った状態で完成します。

全体の形は異様ではありますが、それぞれの組織は正常に形成されています。

またこの異形を磨り潰して、働いている遺伝子を調べたところ、人間の胎児の頭皮とよく似たパターンを示しました。

裏返った異形の皮膚細胞をマウスに移植

位置が裏返った細胞塊もマウスの体内に移植されると再配置されて正常になる/Credit:nature(文字はナゾロジー編集部が記入)

次に研究者は、人工的に作った皮膚が周囲の細胞とも正常に接続できるかを調べるために、裏返った培養皮膚を「免疫反応を抑制したマウス」に移植しました。

黒く見えているのが生えてきた毛/Credit:nature(文字はナゾロジー編集部が記入)

結果は成功し、培養皮膚はマウスの皮膚と融合しただけでなく、血管の接続も行われ毛の成長もみられました。

ですが最も興味深い点は、マウスへの移植によって逆転していた細胞の配列が正常に戻った点にあります。

これは、移植された細胞に対して周囲に存在するマウスの細胞から位置に関する指令が伝わり、再配列が行われたからだと考えられます。

人間に対して移植が行われた場合にも、細胞の再配列が行われれば、正常な毛が体の外部に向かって生えると期待されます。

無尽蔵の毛の供給源

ハゲは移植(物理)でなおすもの/Ctrdit:depositphotos(文字はナゾロジー編集部が記入)

今回の研究は皮膚移植と発毛に革新的な影響を与えました。

これまでの皮膚移植は他の場所から切り取って移し替えるか、単純な構造をした単層の表皮を移植するかのどちらかでした。

しかし、今回の研究により、たった1つの皮膚細胞からでも、iPS細胞を経由することで、完璧な皮膚を無尽蔵に作れるようになったのです。

これは薄毛治療の方法が根本的に変わる他、研究用の人間の皮膚をいくらでも調達できるようになったことを意味します。

また医療研究に用いることで、皮膚がんの治療薬などを、疑似的に人体実験することも可能になるのです。

さらに火傷や怪我が治る過程を何度でも細かく分析できるため、外傷の治療技術を新しい次元に押し上げることができるでしょう。

人工的な皮膚と毛は、無限の可能性を秘めているのです。

研究内容はアメリカ、ボストン小児病院のイ・ジュン氏らによってまとめられ、6月3日に最も権威ある学術雑誌「nature」に掲載されました。

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https://www.nature.com/articles/s41586-020-2352-3
reference: sciencedaily / written by katsu
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